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72.デートの前に②

息苦しさで、航の意識がふっと浮上する。 直ぐに満からキスをされているのだと気がついた。しかも濃厚なキスだ。 満も航が目覚めたことに気がついたのか、更にねっとりと口内を嬲り始める。 上着の中を弄られ、ぎゅっと胸を摘まれた。 じわじわと広がる快感に航は身を捩ったが、いつもの通り大きな体が圧しかかっていて抵抗らしい抵抗は出来ない。 寝起きで半分回らない頭を動かすのも億劫だし、何よりも気持ちいいので航は思考を手放して満がくれる快感を享受することにした。 きっと次は下半身を愛撫してくるのだろうと思った所で、すっと満が離れていく。 予想が外れた航は、もどかしい気持ちのまま瞳を開いた。視線が合うと満は目を細めて意地悪そうに微笑み、言った。 「期待しちゃいましたか?」 瞬間、航の頭の中のモヤがスッキリ晴れて、顔がカッと赤くなる。 「するわけねえし!」 そしてそう大きな声で返すと、パッとベッドから跳ね起きた。 満はクスクス笑いながら、 「朝ご飯にしましょう」 と言い残し、部屋から出ていってしまう。 残された航は頭を抱え、まんまと勃起してしまったそこを恨めしげに睨んだ。 航がリビングに現れたのはそれから十分後だ。 満が貸したパジャマから、昨日大学で着ていた服に着替えている。 しかし彼は満を見るや否や言うのだ。 「やばい、着替えがない」 満は首を傾げる。 「着替えているように見えますけど」 「水族館行くんだろ?この格好じゃまずい」 「パーカーとデニム……十分でしょ」 「いや、どこに関係者がいるかわからないから。流石にこれじゃラフ過ぎる。 俺、これからちょっと車に行ってくるよ。 いつも予備を積んでるんだ」 「そうですか、跡取りさまは何かと大変ですね。でも、駄目です」 「は?」 予想外の満の返答に、航は目を丸くする。 「逃げるとか思ってんのか? 先約は言う通りキャンセルしたし、ちゃんと戻ってくるよ」 「貴方の着替えならあります」 「え?もしかして、お前の服か? サイズが違うから嫌だよ」 「いいえ、貴方のサイズですよ」 「何であるんだよ」 「こんな事もあろうかと用意しておきました」 「なっ。何で俺のサイズ知ってるんだよ」 「貴方、大体私が中学生くらいの時と同じくらいの背格好なので」 「……」 「ちゃんと朝ご飯を食べないと大きくなれませんよ。服は後で出して差し上げますので、まずは食事をどうぞ」 「小さくねえし」 「大きくもないですけどね」 「……」 「ちょうどいい大きさで可愛いですよ」 「可愛くねーし」 キッチン側から前のカウンターテーブルに食事を乗せて手招きすると、航は膨れ面のまま席についた。皿の上を見ると、思いの外"ちゃんとした"ものだったので航は驚く。 「お前、なんか栄養ゼリーとかで生きてるイメージだった」 「藪から棒に失礼ですね。 バランスの良い食事と運動、より良い性生活のための基本です」 「道理で絶倫……」 「何か?」 「いいえ、何でもございません。 じゃぁ運動嫌いなのにジム通ってんのもそのためか」 「ええ、いざという時に相手を組み敷いて拘束できないと困るので」 「性欲にホント貪欲だな」 「お陰様で若さまの体に快感を叩き込んで差し上げることができました」 「自慢できたことじゃねえからな、それ」 航は呆れながらも、腹が減っていることに違いはないので朝食を頬張る。 その横に座りながら、満は頬杖をついて目を細めながらその様子を暫く見守っていた。 「美味しいですか」 「うん、すごく」 「それは良かった」 「うちのより全然うまい。 うちの飯ってなんかこう、コッテリしてて全体的に重いんだよな」 「プロの方が作るのでしょう? レシピに忠実なんじゃないですか」 「ああ、そうかも知れない」 「後は愛情かな」 「は?愛情?」 「ええ、好きな人に美味しく食べてもらいたいっていう気持ちです」 「えっ、きもちわる。 それにお前らしくない、全然理論的じゃない」 「酷い物言いですね。世の中には理論では説明できないこともあると私は思いますよ」 「そうかも知れないが、お前はそういうこと言わないタイプだと思ってた」 「私は貴方が思っているよりずっと感情的に生きていますよ。じゃなきゃ本家の若さまを手籠めにしようなんて思いません」 「うーん、すごい説得力……」 満がにんまりと笑む。 この綺麗な顔をした真面目そうな男があんなことをするなんて全く思えない。 全く食えない男だと航は独りごちて、残りの食事を掻き込んだ。 そして食事が終わり、満が用意してくれた服を航は確認する。 いつも好んで着ているブランドのものだが、公の場にも学校でもそれを見せたことはない。公にはスーツだし、学校では敢えて普通の学生と変わらぬ様、所謂プチブラの服を選んで着ているからだ。 だから本当にこの服を着るのは自宅か、友人と出かけるプライベートの時くらいだ。 そして航は、満とプライベートで外出したことはない。 何で知ってるんだと航は首を傾げながら、まず上着に手を通す。満が言う通り本当にサイズがぴったりだ。 そしてスラックスを手に持って、航は固まった。 「どうかしましたか?」 両手でそれを上に掲げたまま一向にそれを履こうとしない航のバックにスッとまわり満が言う。 そしてさりげなく航の肩に手を置く。 「おい、何だこれ」 航がそう言って広げたスラックスにはフロントとは別にもう一つ、股の間から尻に向けてジッパーがついていた。 「ああ、珍しいでしょ」 「珍しいというか、何となくお前の魂胆がわかってしまった」 「おや、期待させちゃいましたね」 「期待なんかするか!あとこんなの履けるか!」 「履いてしまえば貴方が思うほど目立ちませんよ」 「もういい、車から取ってくる」 「駄目です、履いて下さい。 あと下着はこれをつけてくださいね」 「え、何だこれ」 次いで満が出してきたそれは、下着には違いないのだが股のところがぱっくり開くようになっている。航はそれを確認して、床に投げつけた。 「お前いい加減にっ」 「若さま、これ、命令です」 「お前……っ」 「いいんですか?私に逆らっても」 「卑怯だぞ」 「今更ですね、何とでもどうぞ」 満は涼しい顔でそう言うと、睨む航に更に命じた。 「下を脱いで、そちらの壁に手をついて、足を開いて下さい。お出かけの準備をしましょう」 航は青ざめながら満を見上げる。 嫌な予感しかしない。 そしてその予感は直ぐに的中する。 「なあ、うそだろ」 航が背後を振り返ると、満がグロテスクな黒いものにローションを垂らしているのが見えて、思わず震えながら尋ねる。 「嘘じゃないですよ、お尻上げて」 満はそう言うと、手に持ったアそれの先端をぐりぐりと航の後孔に押し付けた。 所謂アナルビーズだが、航は初見だしその名前すら知らないので不安になる。 満がそんなことを配慮するはずもなく、遠慮なく1つ目の玉を押し込んだ。 大分調教が進んだ航の孔は簡単にそれを飲み込む。 「あっ」 「はいはい、気持ちいいですね」 「きもちくな……んんっ」 「お尻緩めて下さい、そんなに締めたら入りません」 「んなの、むり……うう」 満は航の孔が締まるたびペチペチと尻をたたきながらアナルビーズを挿入していく。 全部で4つの玉を胎内に収めた航は、ふうっと息を吐いた。 「これから出かけるんじゃなかったのかよぉ」 「出かけますよ」 満はアッサリそう言うと、今度は勃ち上がったペニスをやわやわと揉む。 「リングしますか?」 「リング…?」 「所構わずお漏らししたら貴方が困るかなって。私は困りませんけど」 「漏らさねえし」 「もうカウパーが溢れてますけど」 「……」 「櫂の前で漏らしたくなければ付けておいたほうが」 「ちょっと待て、これ尻に入れたまま出かけるのか?」 「はい、そういうプレイなので。 ちなみにランダムに動かします」 「へっ?あ、あ、ちょ……ああんっ」 その瞬間、カチッと満がスイッチを入れると航の胎内でアナルビーズが細かく震え出す。 「うあ、や、こら、やめ……ああっ」 「おっと、まだイかないで下さい」 「いたっ」 満は航のペニスの根本をぎゅっと握って射精を阻止し、 「私はとても親切なので、付けてあげますね」 「うう、それはどーも……」 と囁いて慣れた手つきでそこにリングを装着した。 そして足元の下着とズボンを航に履かせてやると、後ろから例のジッパーを開く。 そこから手を通し、アナが開いている股から更に奥に侵入すると、航のペニスを改めて擦った。 「ふふ、いい感じ」 「……っ、よく、ねえ」 「弟と親友の前でイかないようにがんばってくださいね。バレたらふたりともビックリしてしまうし、貴方を見る目が変わるでしょうね。 特に櫂は、兄がこんなに淫乱だって知ったら……」 「てめえ、やっていいことと悪いことがあるぞ」 「ええ。私がやっているのは基本的に悪いことですね」 「わかってやってるんだからマジでタチが悪い……」 航が眉を寄せ満を睨む。 すると彼はニコニコしたまま返した。 「ふふ、貴方のその顔凄くいい、好きですよ。 屈服させたくなります」 「……」 駄目だ、やばい。こいつマジの変態だ。 航ら青ざめながら満を見やる。 そして、少しでもいい奴かもしれないと思ってしまったことを悔いながら、これからのデートとやらに不安を募らせていた。

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