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73.デートの前に③

腕の中でカイが目覚める瞬間を見守っていると、誉は多幸感で胸が一杯になる。 そのルビーのような瞳に真っ先に自分の顔が映る。瞬間、ふにゃりとそれが細められて、カイは甘えるように胸に鼻先を擦り付けてきた。 それをぎゅっと抱きしめて、 「おはよう、カイ」 と囁いてその頬にキスを落とす。 最初はそれだけと思ったのだけれど、可愛らしいその顔を見ていると我慢ができなくなる。 誉はそのまま額、鼻の頭、そして唇にキスをしようとして、最後だけ避けられた。 「……くすぐったいし」 顔を赤くしたカイは、口を尖らせながらそう言って横を向く。もうキス以上のこともしてるのに、ずっと初心なその仕草が誉はたまらなく好きで、また抱きしめてしまった。 カイは抜け出そうとモゾモゾ動いたが、誉がびくりとも動かないので直ぐに諦めて大人しくなった。 誉の温もりを感じながら、カイは自分の体に小さな違和感を覚えている。 誉にそうされていると、何故だか下腹のあたりがムズムズするのだ。 そのムズムズが、尻の方まで広がってくる。 別に痛いわけではないのだが、その感覚が何とも言ない心地悪さで眉を寄せる。 そのまま腰の辺りに手で触れて確かめようとすると、直ぐに誉が気がついて声をかけてきた。 「どうかしたの?」 「ん……」 カイが臀部の少し上を擦ると、追うように誉の大きな手がカイの手越しにそれに触れてくる。 「ひゃっ」 そうされると余計にムズムズが大きくなって、カイは変な声を上げてしまった。 「痛いの?」 「ううん、痛くはないんだけど」 カイは誉の腕から逃れ、ぺたんとベッドに座って改めて下腹を確認した。 やはり、特におかしなところはない。 誉も心配そうに起き上がり、カイの下腹に手を当てるとサワサワと撫でた。 するとカイがその身を震わせた。 「ん、やめて、なんか変」 「痛い?」 「ちがう、ちがくて、なんか」 カイは症状を上手く表現できずに戸惑うが、腹を撫でるたび息を弾ませ、太ももをモゾモゾさせる様子を見ていた誉は直ぐに察しがついてしまった。 "昨日、前立腺をかなり攻めたから、まだ余韻で疼いちゃってるんだろうなあ。可愛いなぁ……" 緩んでしまう口元を締め、誉は努めて真面目な顔を作る。 「ちょっとこっちおいで。お膝で立てる?」 「う、うん」 思いの外誉の表情が固かったので、カイも緊張してその通りにした。 もしかして、どこかおかしいのだろうか。 不安になるカイを膝立ちで立たせ、誉は下腹の辺を臀部と合わせて少し強めに押す。 「ンッ」 すると急にムズムズが気持ち良い刺激に変わり、カイはぶるりと震えた。 「こうすると痛い?」 「ん、痛くない……そうじゃなくて……」 「ここは?」 「あ、んん」 直ぐにカイから返事がなくなる。 代わりにその膝がガクガクし始めた。 見やると、顔を真っ赤にして両手で口を覆って いる。指の隙間から、熱くて荒い吐息が漏れていた。 誉の指が、ズボン越しとは言え際どい所に近づいてくる。臀部から尻の割れ目までをすっと撫でられ、よもや割って中に入ってくるかと思ってぎゅうと締めると、今度は尻の孔のあたりが疼いた。 「誉、やめて。おれ、なんか変」 「ふふ、変じゃないよ。俺、わかっちゃった」 誉はそう言うとカイから一度離れて、よしよしと頭を撫でてくれる。 そして半泣きのカイに向かい、 「カイの身体が、はやく誉に気持ちいいことしてほしいよ〜っておねだりしてるんだよ」 と、デリカシーが全く無い所見を伝えた。 「えっ、なんで」 「好きな人といると、そういう気持ちになっちゃうよね」 「そ、そうなの?!」 「そうだよ、俺もそう。ホラ」 「う、おっきくなってる」 「でしょ。だから、任せて」 「えっ、えっ」 誉はそう言うと上着の下にするりと手を滑り込ませ、今度は直接腹を撫でる。 そして上着越しでもわかるくらい勃っている乳首を軽く食んだ。 「ほま、やだ、それ」 「もどかしいねえ」 「んんー…っ」 カイの下腹がぎゅっと凹んだ。 太ももに力を込めて健気に耐えている姿が可愛くて、誉は小さく笑む。 「ひゃっ」 「下着、汚しちゃうと困るでしょ」 誉はカイのパジャマを下着ごと下げて、陰嚢よりも少し奥をサワサワと撫でた。 男性会陰と呼ばれるポイントだが、勿論カイにそんな知識はない。 「あっ、え……?」 際どいところを誉の指がそこをなぞるたび、ぞわぞわと広がる快感に、カイは戸惑う。 「ほまれ、そこやだ」 「けど、ここツンツンするとお腹とお尻のムズムズが良くならない?」 カイの気持ちとは裏腹に、その身体は正直だ。 誉の指にそこを押し付けるように腰が揺れている。 「よしよし、気持ちいいね」 「ううーっ」 ぎゅっと目を閉じるカイの頬を撫でた後、誉はその顎をくいと引く。 そして唇を重ね、その唇を割った。 カイの身体を抱き寄せて、小さな舌を絡め取りながら会陰だけを刺激する。 カイが両手を所在なく彷徨わせたので、誉が首にそれを回すように促して落ち着かせた。 カイの舌先がふるふると震えた。 それと同時にその細腰がびくんと揺れる。 一度ピンと張った後、カイの身体から一気に力が抜けた。誉にもたれかかるようにしながら、腰を前後させるカイの背中を誉は撫でてやる。 「おつかれさま、上手にイけたね。 お利口さん」 余裕のないカイは荒い息を返すだけだ。 その絶頂に、射精はなかった。 夕べ絞り取ったのもあるが、カイの身体が思う通りに出来上がってきていることに誉は強い満足感を覚えていた。 少しするとカイは落ち着いたのだが、ご機嫌はよくない。流れでまたエッチな事をされたのがお気に召さなかったようで、ベッドの端っこでふくれっ面のまま膝を抱えている。 一方誉はご機嫌で、鼻歌交じりにクローゼットから着替えを出してカイの前に並べていく。 「オレ、着替え持ってるし」 それを忌々しそうに見つめながらカイは返すが、誉は全く動じずにそれらを広げて合わせてやりながら言う。 「うん、やっぱり今日はこっちにしよう」 「てか、何でこんなに沢山あるんだよ」 「まだあるよ、見る? カイに似合うかなあと思うとつい買っちゃうんだよねえ」 「見ないしっ」 「自分が選んだ服を、好きな人が着てくれると凄く嬉しくて幸せな気持ちになるんだよね、俺」 「………」 カイは誉を睨んだが、服を受け取った。 黒いフード付きのTシャツと、ダメージ加工の入ったデニムだ。上着には、でかでかといつものウサギが白線でプリントされている。やはり誉はこのちょっとゆるめなキャラクターが好きなのだろうか。 「こういうの着たことない」 「でしょ〜、着たところ見せて」 カイが普段着るのは母が選んだものだ。 大体はスラックスにシャツ、上にベストときっちりしたものが多い。 所謂"お坊ちゃんスタイル"である。 「なんか恥ずかしいから嫌だよ」 「もう、カイは甘えん坊だなあ。 わかったよ、着せてあげるよ」 「ちょっ、いいよ、自分で出来る!」 誉が全く聞き耳を持たないので、カイは諦めて着替えることにした。 目の前の誉がニコニコしたままずっと見てくるのが非常に居心地悪かったが、何を言ってもどうせ聞かないので無視をした。 「やっぱり思った通り可愛いなぁ」 着替え終えたカイを見て、誉がうっとりとそう言う。 「立ってみて、そうそう。 あはは、可愛い」 「あんまり可愛い、可愛い言うな」 「いいじゃない、可愛いんだから。 ボーイッシュで本当に可愛いよ。よく似合う」 「いや、オレ男だし」 誉はカイに年相応の格好をさせたつもりだったが、幾分若く見える。中学生と言っても余裕で通じそうだ。 そして元より華奢なカイは、その幼い顔立ちも相まって男の子には見えなかった。 さっき誉が言った通り、ボーイッシュな女の子そのものだ。 別に誉はカイに女子らしさを求めているわけではないけれど、可愛い恋人の姿はやはり愛しいものだ。自分が与えたものを着てくれたのなら、尚更そうだ。 「よし、じゃぁ次はこっち……」 「ファッションショーじゃねえし! てか、服が箱一杯あるじゃねーか!」 「ん?まだもう一箱あるよ」 「何で?!」 「いつかカイと恋人になったら着せようと思って買ってたらいつの間にかこんなに……」 「なんでセーラー服とかナース服まであるんだ?」 「いつかカイが恋人になったら着せようと思って……」 「変態!」 「わかった。もうこの際認める。 認めるから、今夜このスク水着てエッチさせてくれない?」 「絶対やだ!」 呆れたカイはため息をついた。 コスプレはさておき自分のことを考えて洋服を買っている誉の姿は、想像するとなんだか微笑ましい。 そして恋人のために服を選ぶのってどんな気持ちなのだろうか。誉が言う通り、そんなに幸せなことなのだろうか。 俄に興味がわいたカイは、ふと思い立って言う。 「今度のデート、服買いに行こ。 オレも誉の選んで買ってみたい」 すると誉は一瞬驚いたような顔をした後、微笑んだ。そして、 「じゃあ、お互いの服を買ったら着替えて、それでデートしよう。きっと楽しいよ」 と、嬉しそうに提案に乗ってくれたのだった。

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