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80.ダブルデート⑥

意外なことにカイは水中を優雅に漂うクラゲが甚く気に入ったようだった。 キラキラ光っていて綺麗だと言っているので、もしかしたらクラゲ自体ではなくライトアップやイルミネーションの類が好きなのかも知れない。 誉の中でカイのお気に入りストックが溜まっていく。 まるで物を知らぬ彼の反応は、全てが尊い。その赤い瞳が煌めく様子は微笑ましく、そして誉の心を満たしてくれた。 ましてやそれが自分が与えたものなのだと思うと、誉はこれ以上ない多幸感で胸がいっぱいになるのだ。 「カイ、ちょっと座って見てみない?」 丁度全体を見渡せる位置のベンチが空いたので、誉が声を掛ける。 カイは体力もないし、そろそろ足も疲れてきた頃だろう。その予想通りカイはコクンと頷いて誉の横に腰を下ろした。 一つずつの水槽をみるのも良いが、こうやって全体を見るのも悪くない。 ついでに先程の荷物から抜いておいた水筒を差し出すと、カイは素直に口をつけた。 そしてパッと表情を明るくする。 「これ、美味しい」 「そう、よかった」 カイが好きなフルーツを漬けて作った誉お手製のフルーツティーだ。案の定とても気に入ったようでゴクゴクと喉を鳴らし飲んでいる。 小さな喉仏が上下するのがとても可愛くて、誉は目を細めた。 「これとクッキー食べたい。絶対美味しい」 「そう言うと思ってね、持ってきたよ。 後でおやつに食べようね」 「やった!」 カイは両手を上げて喜んだ。 それから誉の腕にこてっと頭をつけてその顔を見上げながら首をかしげる。 「誉は、何でオレがほしいものがいつもわかるんだ?」 その様子が本当に可愛くて、可愛くて。 誉はニコニコしながらそんなカイの頭を撫で、 「君のことが大好きだからだよ」 と、返してやった。 カイはわかりやすいくらい真っ赤になって、何やらゴニョゴニョ言いながら誉のシャツの脇腹のあたりを摘む。 「カイだって、俺がしてほしいこと、ちゃんと先に分かってると思うけど」 誉はそう続け、カイの顎の下を撫でる。 すると自然にツイと顎が上がったので、そのまま唇を寄せた。カイは肩を少し上げる。 押し返そうと上げた手は、先んじて誉に掴まれてしまった。 3回角度を変えてキスをして離れると、誉はカイの鼻先でニッコリ微笑んだ。 「ホラ、俺がキスしやすいようにしてくれた」 カイは更に顔を赤くしながら、ジトッとした目で誉を見る。 何も言わないのは、図星か。 誉はその鼻の頭にもう一度軽くキスをすると、その頭を撫でた。 「お前、いつも人目気にしないで、ほんとに」 「どうせみんな、クラゲさんに夢中でこっちなんか見てないよ」 「……そんなことない。 あそこの女の子たち、ずっと誉見てるもん」 するとカイは下唇をついと出して拗ねたように言う。カイは気づいている。 どの展示に行っても、ずっと女の子たちがこっちを見て噂をしている。 それもこれも全部誉がカッコいいからいけないんだ! 「そう? じゃあ、分からせてやらないといけないね」 「へっ?」 すると誉はそう言ってカイの腰を掴み引き寄せる。そして顔を近づけてきて、さっきよりもずっと深く口づけてきた。少しだけとはいえ、舌も入ってきたからカイは驚いて背筋をピンと伸ばした。 「ほま、おまえ……っ」 「ふふ、これであの子たちもわかったでしょ」 「な、なにがだよ」 「君には、もうこんなにカッコいい彼氏がいるってこと」 「だから、女の子が見てたのはおま」 「君だよ」 「え?」 「ずっと皆の注目を浴びているのは君の方。 綺麗とか、可愛いとか言われてるの聞こえない?まあ、実際その通りなんだけどさ。 でもカイは俺の。俺だけのもの」 そして誉はカイを抱きしめて先程カイが言った女子達の方を向く。 その細められた瞳は、いつもカイに向けるそれとは異なり冷たくて鋭かった。 ぞくりとした感覚がカイの背筋をすり抜けていく。しかしその後もう一度自分を見た誉の瞳は、打って変わって蕩けるように優しい。 執着されている。 執着して、もらえている。 カイの胸が高鳴り、腹の下あたりがずくずくと疼いた。執着されるほど愛されているという実感が、カイの心をこんなにも高揚させる。 では自分はどうだろうか。 先程の女の子たちの姿が脳裏を掠める。 誉の横にあの子たちがいたらどうだろうか。 そんなの、絶対許せない。 誉を抱きしめ返した。 これ、オレの。 カイはそう強く思うがまだ口に出す勇気が出ない。 だから、もう一度ぎゅうとその腕に力を込めた。 すると頭上からふっと息を吐く音が聞こえる。 そして誉はカイの背中を撫でながら、カイの頭のてっぺんに優しいキスを落としてくれた。 一方、徐々に人が入り始めたイルカショー会場にて。 航は信じられないと言った顔で、膝にかけたタオルに突っ込まれた満の腕を見つめている。 満の手は、航の太ももを軽く撫でた後股間を弄る。 そしてジィッとジッパーが下げられる音がしたから、航は更に驚いて満の顔を見上げた。 彼は平然とした様子で下げたジッパーから今度は下着へと指を伸ばすと、半勃ちのペニスに躊躇なく触れる。 「やっぱりリングじゃ多少漏れますねえ……」 指先で輪っかを作ってヌルヌルと擦られる。 航のペニスはすぐに反応して大きくなる。 しかし、それを根本のリングが締め付けるのだ。 「満、痛い。痛いよ」 痛みに弱い航は、小さな声で満にそう訴えるが満は止めない。 周りに人が増えてきて少しずつざわめき始めた。 「満、もうやめ……ンっ」 するとその瞬間、尻の中のアナルビーズが小刻みに振動し始める。 「みつ……っ」 満は目を細めながら航を見下ろしている。 航と反対側の手の中から、カチッともう一度音が響いた。 「あ、うそ、おっきくなっ……っ」 航はビクンと体を揺らして、思わず満の腕を抱く。そして直ぐに前かがみになり頭を抱えた。 胎内のそれが一回り大きくなると同時にうねり始めたのだ。まるで乱暴にかき回されているような感覚だった。航はたまらず腰を浮かせる。 そうすると激しい動きをしたそれが出てきそうな感覚に陥って、慌てて尻を締めた。 しかしそうすると、うねりと振動がもっと強く感じられて余計に欲情を煽られる。 「あ、あ……」 どうしたら良いか分からなくなって、腰を浮かせたり下ろしたりを繰り返す航を見ながら満はクスリと笑う。 そしてその耳元で囁くのだ。 「おや、舞子さんがいらっしゃいましたよ」 航が顔を上げもう一度満の顔を見上げた。 すると満は丁度2列向こうの真ん中あたりの席を指差す。 つられた航もその方をみると、丁度舞子が子供達の先導を終えて腰を下ろすところだった。 彼女は直ぐに航の視線に気がつき、にこりと微笑んだ。そしてその手を顔の横で上品に振る。 航は右手を控えめに上げてそれに答えるのがやっとだ。 「気持ちいいのはわかりますけどね。 あまり腰をヘコヘコさせてると、舞子さんに変に思われますよ」 「きもちくなんかねえし……っ」 「そんなトロ顔でイキられてもねえ」 「あ、あぁ、やだ、みつ……」 「暴れるとタオルが落ちちゃいますよ」 「うーーっ」 「声、我慢して。後ろの席に人が来ました」 「……っ」 航は椅子に座り直して唇を噛みしめ、タオルを握りしめた。 こんなところで陰部を刺激されて震えている自分は今、どんなに無様な姿を大衆に晒しているのだろう。想像しただけで恥ずかしくてたまらない。 ……それなのに。 「そろそろかな?」 満は航の萎え始めたペニスを解放する。 航は小刻みに震えながら、満の肩に頰を乗せ擦りつける。 「気持ちいい?」 航は首を横に振りかけて止め、コクリと頷いた。 「………やばい」 「素直な子は好きですよ」 航は口元を手で押さえながら浅い呼吸を繰り返す。そろそろかな、と満は思いながらその耳元でわざと意地悪を囁いた。 「舞子さん、さっきからこっちを見てますよ。 あなたの事がよほど気になるんですね」 航はハッとしたような顔をして頭を上げる。 が、その瞬間満は手元のスイッチで振動とうねりを最大限まで引き上げる。 「や、あっ…!」 続く嬌声を我慢するために、航は唇をかみしめた。しかしそれ以上は我慢が効かず、結局航はそのまま達してしまった。 「うう……」 航はそう唸り、重たい身体を満に預けたまま肩を上下させている。 「あーあ、彼女の前でメスイキしちゃった。気持ちよかったですか?」 「……てめ」 「貴方がさっきから私にもたれているから、彼女が心配そうに見ていますよ。 おや、立ち上がった。こちらに来るかな?」 「ちょ、待っ」 そう言われると航は慌てて顔を上げて舞子の方を見る。すると舞子は丁度立ち上がり、その2つ向こうに座る子どもの世話を始めていた。 「騙したな」 「ふふ。でもよくこちらを見てのは事実ですよ」 「……」 「ほら、またこちらを見てる。 貴方からも手を振っておあげなさい」 「やだよ。何で俺がそんな女々しいこと」 「へえ、意外と……そうなんだ」 「何だよ」 「メスのトロ顔晒してる癖に亭主関白的な所があるんだなと。今流行りませんよ、そういうの」 「なっ、そんなことねえし」 「まあ、それで貴方が舞子嬢から愛想をつかされるなら、私としては御の字ですが」 「つかされねえし!」 「……」 「あっ、スイッチ押すなよ、絶対押すなよ」 「それ、フリですか?」 「ちげーし!」 満は何も言わず、すっと航から手を離す。 しかし、どうやらこの開いた下着もズボンのチャックも戻してくれる気はないらしい。 自分でやったくせに無責任だと航は恨めしげに満を見やったが、その視界の端に親友と弟の姿が映ったので、慌てて衣服を整えた。 すると満はその切れ長の瞳を細めながら航の頭をよしよしと撫でると、その膝の上のタオルをつまみ上げて几帳面に畳んだ。

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