84 / 86
特別編 誉くんと中学生櫂くん④
お前、重過ぎるんだよ。
恋人とは言え他人だし、何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いだからな。
誉が初めてそう言われたのは、最初の恋人と別れたときだ。
それから何度も同じ理由で自分から人が離れていくのを経験し、誉は他人に期待することを一切止めた。
来るものは拒まないが、去るものも追わない。
そして、相手に関心を持たない。
そうすれば、相手に執着せずに済む。
そうすることで他人との軋轢はなくなったが、一方で誉にとって人との付き合いは非常につまらないものになった。
そんな誉の、とうの昔に捨てたはずの他人への執着心を蘇らせたのが如月 櫂である。
だってこの子は、気まぐれに優しくしてやっただけなのに、こんなにも自分に甘え全身を委ねてくれたのだ。
これまで重いと言われ続けた誉の思い全てを受け止めて、もっとと貪欲に欲しがってくれるのだ。
愛情に飢えた、可哀想で可愛い櫂。
そして奇跡のように心も体も真っ白な彼を、自分の色に染め上げて、一生愛する。
そう、櫂を幸せにできるのは、自分だけ
この腕の中で、櫂との愛を大切に大切に育むと決めた。確認はしていないけれど、きっと櫂だって同じ気持ちに決まっている。
櫂に出会って3ヶ月。
誉は既にもう、そこまで思い詰めていた。
だから、一見欲望に負けただけに見えるこの行為も、誉の中では大きな意味があった。
誉はそっと顔を上げて、目を細め、改めて櫂を見下ろす。
櫂の白かった肌が、誉の愛撫で桃色に染まっている。幼い性器はキスだけでゆるりと勃ちあがり、先走りがトロトロと蜜のようにこぼれはじめていた。
「良かったあ、感じてくれてる」
誉はうっとりしながらそう呟く。
「俺さ、カイには最高に気持ちよくて、幸せな初体験をさせてあげたいんだよね。
だから、これからいっぱい練習しよう。
大丈夫。ちゃんと俺が教えてあげるから、何も心配いらないよ」
カイの美しい肢体に、誉はローションを垂らしていく。
可愛らしいピンク色のペニスをぬるぬると擦ると、カイがふあっと声を出した。
くっと体を曲げてピクピクと震える。
「ちゃんと剥けてるなあ、ちょっと意外」
カイの性器を確認しながら、誉は呟く。
「残念、俺がしてあげたかったのになあ。
仕方ない、じゃあ、こっちは俺がもらっちゃお」
そしてとうとう誉の狙いが後孔に向けられる。
ローションをたっぷり垂らして、指ですくいながらピンク色の孔をくるくると撫でた。
縁がヒクヒクとし始めた頃合いを見計らい、浅く指を挿入しく出し挿れしてみる。
「あ、んん」
カイは僅かに腰を浮かしてそう喘いだ。
「ちょっとだけ、前立腺もしてみようか」
誉はそう言って更に指を奥に挿入する。
カイのコリコリとしたそれは、思いのほか浅めの所にあった。トントンとしてみると、更にカイの腰は浮いて、太ももが痙攣し始めた。
カイが口をパクパクしているので、誉は自分の唇でそれを塞いでみる。
するとカイのくぐもった喘ぎは直ぐに止み、代わりに誉に舌を絡めてくるようになった。
カイの小さな舌にチロチロとなめられるのは、こそばゆくて気持ちいい。
「んむ、むう……」
「ふふ、気持ちいいねえ」
誉は同時にカイの幼い性器を優しく擦る。
すると、程なくしてカイの腰が大きく揺れて、誉の手の中で果てた。
「あ、ちゃんと精通してるんだね。
それにしても量が少ないし、薄いかな……。
体の感度も悪くないし、もしかしてカイって結構エッチなのかなあ」
誉はそう独りごち、眠るカイの横に腰を下ろす。そして暫くその愛らしい寝顔を見守りながら頬を撫でるなどしていたが、ふと思いついたようにカイの手を取って、今度はそこにローションを垂らした。
「俺も限界。
ちょっとおてて貸してね」
そう耳元で囁くと、おもむろに自身を握らせる。
そして、カイの小さな手に自分のそれを重ねて、一緒にこすり始めた。
「あー、やば。カイの手、凄く気持ちいい」
それこそ文字通り、箸よりも重いものを持ったことがないような美しい手だ。
子供のようにすべすべで柔らかい手のひらに包まれて、誉のペニスは直ぐに凶器のように大きく固くなった。
誉はふるりと体を震わせ、今度は先端を擦らせた。すぐにズンと腰が重くなる。
自分でも引くくらい早い、やはりカイにしてもらっているという効果は絶大だ。
誉は眠るカイに性急なキスをする。
歯列の裏側を舐めて舌を絡み吸い上げたその瞬間、誉は吐精した。
更にその甘い余韻に浸りながら、手の動きを緩めていく。そして残滓まで全て吐き出し、そっと顔を上げる。
悪戯に自分の体液にまみれた親指の腹ををカイの下唇に当てて汚してみる。けれど、直ぐにそれだけでは物足りなくなって、口の中に挿入してみた。
「ん、ん」
カイは一瞬眉を寄せたが、直ぐ赤ん坊のように誉の指をちゅっちゅと吸う。
誉はそれに言い表せない程の多幸感を感じながら、改めてカイの額に優しいキスを落とした。
大きな温かさに包まれる気持ちよさに、カイはふうっと息を吐いた。
だんだんと浮上する意識に合わせて、瞳を開く。
最初に視界に飛び込んできたのは、誉の胸だ。
頭上に穏やかな息づかいを感じて直ぐに上向くと、誉の顔がすぐそこにあった。
するとその時、ぎゅっと肩を抱かれ引き寄せられた。誉と更に体が密着する。心臓がドキドキと大きく鳴り始める。
先生、寝てる。
どうしよう、どうしよう。
カイは焦りながら体を硬くした。
早くここから逃げ出さないとと思い込み、もぞもぞと体を動かした。すると更に強く抱きしめられて、もうどうにもできない。
カイは半ばパニックになりながら、半泣きでもう一度誉の顔を見上げる。
すると今度は、少し茶色がかった美しい瞳が見えた。そしてそれは、カイと視線が交わるや否や優しく細められる。
「おはよ」
それから誉はそう言ってまたカイをぎゅっと抱きしめた後、ふうと息を吐いた。
「カイくん、よく寝てたね。
ちょっとはスッキリしたかな?」
誉に言われ、カイはいつもよりずっと頭がスッキリしているのを自覚した。普段、起きがけにある頭痛もだるさも全くない。
「うん、すごく」
「そっか、良かった」
誉がニコッと笑うのが眩しくて、カイは直ぐ俯いてその胸に顔を埋めて誤魔化した。
「俺もカイくんのお陰で疲れがとれたよ。
ありがとう」
「……!」
「?、どうしたの?」
「あ、いや、いま、その、"俺"って」
誉は一人称も"僕"で、いつもすごく丁寧だ。
だから突然そんな一人称が出てきたのが意外で、カイはびっくりしてしまった。
「あ……、しまったな」
誉はカイの指摘に目線を反らしそう舌打ちをした。それからもう一度向き直り、カイの唇に人さし指を押し当て、
「内緒だよ」
と囁いてウィンクする。
「カイくんの前だと気が緩んじゃって、お利口さんのフリするのを忘れちゃった」
「なんだよ、それ」
思わずプッと吹き出したカイに、誉は微笑みながら続ける。
「君もそうでしょ。
眼鏡してたら"私"、外したら"オレ"。
おそろいだね」
「……」
「本当の自分を他の人に見せるのって怖いよね。わかるよ」
誉が如月邸に来て、馴染むまでそんなに多くの時間はかからなかった。
兄はもとより、両親と祖父に至るまで直ぐに誉のことが大好きになったのを、カイは横でずっと見ていた。
そんな誉先生でも、"そう"なのだとしたら。
それなら自分は、もっと……。
カイは誉の胸元のシャツをぎゅうっと握る。
そして自ら顔を寄せながら、
「……うん」
とだけ返した。
その後に続く言葉はなかったが、誉はその気持ちを察し、寄り添うように抱きしめて背中を撫でてやった。カイはそれを大人しく享受しながら、誉のシャツを握る手に力を込めた。
それから少しして、誉が明るい声でこんなことを言った。
「そうだ。2人だけのときはお利口さんのふりするの、やめない?」
「お利口さんのふり……」
「そう。本当の自分で、ちゃんとカイくんと向き合って話がしたいんだ」
「……」
カイは俯く。考えているようだ。
誉は、カイが答えを出すのを辛坊強く待った。
そして数分の後、カイはしっかり頷いて、
「わかった」
と、答えてくれた。
誉は嬉しい気持ちを抑えきれぬまま、
「じゃあさ、もう一つ」
と、カイの顔を見ながら続ける。
「カイくんのこと、"カイ"って呼んでもいい?」
「……!」
「それでね、俺のことは"誉"って呼んでほしいんだ」
「え、えと、呼び捨てって、こと?」
「うん。なんか君とか先生とかついてると、新たまちゃって凄く他人行儀な感じがするから」
「ええと」
「ダメ?」
「……」
こんなに他人からグイグイ来られるのが初めてなカイだ。
自分のことを呼び捨てにする人は兄くらいだ。
それだって名前を呼んでもらえることは少なく「お前」が多い。
だからその申し出を受け入れることに、抵抗というか、戸惑いがある。
けれども折角誉がそう言ってくれたのに断って嫌われるのが怖い。
だからカイは、頷いた。
「……わかった」
「ありがとう!嬉しいよ、カイ」
「!」
そして早速誉に名前を呼ばれ、カイはボッと顔を赤くする。次いでまた胸のドキドキが戻ってきた。
それはカイが思ったよりもずっとずっと、恥ずかしい。でも、ずっとずっと、嬉しい。
「ねえ、カイも呼んでみてよ」
「えっ」
次に誉に言われ、カイは更に顔を赤くした。
カイはこれまで、人を呼び捨てにしたことなんてない。
「カイに、"誉"って呼んでもらいたいな」
「え、ええと」
カイはモゴモゴと口を動かして、誉の胸に額をくっつけて、離してを何度か繰り返した後。
凄く凄く小さな声で、しかし、しっかりと誉の顔から目をそらさずに言った。
「誉」
「はい」
誉はニコッと笑ってそう返す。
「誉」
「なあに、カイ」
それからカイはやっぱり恥ずかしくなって、誉の胸に顔を埋めた。
「なんだか照れちゃうね。
でも、すごく嬉しい」
誉はそう言うと、カイを改めて抱きしめた。
「もっともっと、カイと仲良くなりたいな。
俺、カイのことが大好きなんだ」
それに対してやっぱりカイから言葉が紡がれることはなかったが、ぎゅうっと抱きしめてくるその小さな腕が答えで、それだけで十分だと誉は思った。
そしてそれは、誉が
絶対、絶対、この子は自分が一生をかけて幸せにする。
と、改めて誓った瞬間でもあった。
ともだちにシェアしよう!