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第3話

「あ、理人さん」 「ん?」 「今日は豚肉が安いですよ」  新年初仕事を無事に終えた帰り道、スーパーに立ち寄って夕飯の買い物をする。  まだ頭の中が正月ボケしたままだったから、献立も思いつかないまま来てしまったけれど、 「ほんとだ。100gあたり78円は破格だな」 (豚肉か……あれ、食べたいな。前に佐藤くんが作ってくれたやつ。野菜の千切りと豚肉が入ってて、チンチンジャージャーみたいな名前の……)  よし、今夜は青椒肉絲(チンジャオロースー)にしよう。 「理人さん、野菜売り場に戻ってもいいですか?」 「え、なんで?」 「ピーマン買います」 「わかった」  理人さんがくるりとターンし、俺の少し前を軽い足取りで歩いて行く。   「あ」  でもすぐに足を止めて、俺を振り返った。 「豚肉、もう1パック買っておくか?」 「そうですね。冷凍もできるし、どうせなら3パックくらい買いだめしちゃいましょう」 「ん、取ってくる」  この摩訶不思議現象を通してわかったことが、もうひとつある。  それはーー (よし、水曜日の夕飯は豚汁に決まりだ。前に作った時、佐藤くん「美味しい」って褒めてくれたし、あれなら野菜もいっぱいとれる。椎茸は絶対入れないけど) 「同じサイズのパックでいいか?」 「はい」 (もし余ったら、佐藤くんに頼んで肉じゃがにしてもらおう。そしたら、次の日のお弁当にできるしな。佐藤くんと同じものを食べてるって考えるだけで、どんな仕事でも頑張れるんだ、俺は)  理人さんが、四六時中俺のことを考えていること……!  俺の横を通り過ぎるたびに、身体のどこかが触れるのだろう、理人さんの心の声がどどんと流れ混んでくる。   澄ました顔で歩いているスーツ姿のイケメンが、まさか内心では恋人の俺にデレッデレだなんて、誰が想像するだろうか。  理人さんが実はポーカーフェイスがめちゃくちゃ得意だったという発見は、俺にとってけっこう衝撃的だった。  理人さんほどわかりやすい人間はいないと思ってたのに、思いっきり顔に出てしまっているのは、むしろ俺の方だ。 「……こんちくしょう」

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