2 / 33

第1話 哀斗視点

毎週金曜日。13時。仕事のためにとあるサンプルを買い配達日はいつもその曜日、その時間にしている。 だって、そうすれば必ず大好きな人に会えるから。今は客と配達員という関係でもいずれは恋仲になれたら、なんて密かに思う。 ……一応サンプルが届くのも楽しみやで? うん。言い訳でもなんでもなく。 その日まで書き上げれる記事は書き上げ終えちらりと時間を確認すればそろそろ荷物が届く時間になっていた。 髪を軽く整えながら服はこのままでおかしくないか確認する。もうちょい小綺麗な服の方が、なんてあれこれ考えていればインターフォンが鳴る音にぴくんと身体が反応する。 先程までの思考なんて全てどこかへ飛ばしながら我ながら騒がしい足音を立て玄関へ行けばドアを開く。 息が荒くないかと少し不安に感じるもその不安すら吹き飛ばすような汐崎君の笑みに舞い上がりそうになる。営業スマイルっていうのは分かってんねん……。分かっとるけど、好きな子の笑顔やし……なんて誰に言うわけでもないような言い訳を心中で繰り返す。 そんな俺なんて知らない汐崎君が「啓影さんにお届け物です」と言う。程よい低音が鼓膜を震わし叶うならその場にしゃがみ込みたくなってしまう。 けれど、懸命に平静を装い「ああ、いつもありがとうなぁ」言いながらポケットからハンコを取り出し受取書に押した。 今時ハンコを押す人間が珍しいのか初めて汐崎君が届けてくれた時の小さく零した「珍し」はいつまでも忘れられへん。 出来るなら録音したかった。残念。なんて思いながら荷物を受け取り帰る前の彼にいちご味の飴を渡す。 最初は断られ続けたけど素早くポケットに忍ばせ続けていけば諦めたように彼は飴を受け取ってくれるようになった。 渡すときにわざと汐崎君の手に触れてはオトメみたいにドキドキしながら彼が飴を受け取ってくれたことが嬉しくてニコニコしとると汐崎君は不思議そうに首を傾げた。 そんな姿も可愛くて愛おしい。いつまでも眺めていたい。出来るなら、ずっとそばで。 ――なんて言えるわけもなく次の配達へ慌ただしく向かおうとする汐崎君が軽く会釈をし足早に立ち去っていく彼を見送る。ドアを閉めたフリをしていつまでも——見えなくなっても眺める。 彼が乗ってきたであろう車の音が遠ざかった頃に俺はわざと彼に触れた手に唇を寄せた。 「……いつか、その口にキス出来たらええなぁ」 なんて。願望を口にし少しだけ恥ずかしなって俺は家の中に戻った。

ともだちにシェアしよう!