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☆ 第2話

一週間に1度は見るお得意様へ荷物を運ぶ。 いつも通りバンから荷物を出し階段を上る。オレがインターフォンを押せばやはり慌ただしい足音が聞こえドアが開かれる。 決まった言葉。いつも通りのやり取り。それで終わるはず、だった。 「っ……」 不意に感じるぴりりっとした痛みに思わず眉根を顰める。 「どうしたん?」 「あ……いえ。受取証で切ったみたいで」 思いの外深いのか血はどんどん滲み出るし鈍痛を感じる。じっとこちらを啓影さんが見つめる。 何故オレを見つめているのだろうか? 「どうしました?」 「あ……いや……」 しどろもどろの相手にもしかして自身の血が受取証あるいは荷物についてしまったのだろうか? そう思い申し訳なさでいっぱいになる。 早めに血を止め謝ろうと思い切った指を舐める。その後、ハンカチで覆うと思った時ごくんと唾を飲み込む音が聞こえた気がした。 いつしか手首を掴まれ「手当てさせてや」となにやら余裕のなさそうに感じる声音。 大丈夫ですからと言う前に彼に手首を引かれ家の中に。 靴は啓影さんに脱がされあれよあれよと部屋の中に通される。 「座っとって」 啓影さんはそう言って救急箱を取りに行ったのかリビングを出ていった。別にこれぐらい大丈夫なのにな、と思う反面お客様の手を煩わし上司に叱られるなと考えると憂鬱になる。 この後、配達の予定はないものの早く戻らねばという気持ちが湧き上がるが親切を無下にしてはならないと渋々ソファに腰掛けた。 「外暑かったやろ。とりあえずこれ飲んでや」 しばらくして戻ってきた啓影さんが差し出したのは冷えた麦茶。カランとグラスの中で氷が音を立てた。 「……お構いなく」 なんて言いながらも喉が渇いてんのは事実で。渇きに耐え切れずグラスに手を伸ばし麦茶を一口。 ふぅ、と小さく息を零したのもつかの間。啓影さんに腕を掴まれる。 それはもう痛いぐらいに。 「な、なんです……?!」 問い掛けを飲み込まざるを得なかった。彼はなにを思ったのか先程怪我した指を舐め始めた。 ぞわっとした悪寒が背筋を駆け巡りやめろ、と言うように腕を退こうにもびくともしない。 「ぃ"……ッ!?」 傷口を抉るように力強く指を噛まれた。なんの意図があるんだろうと啓影さんを見れば彼の瞳には欲望が浮かんでいた。 ぞわりと。恐怖心が込み上げる。 同性から性的対象に見られた事はある。1度や2度なんて可愛いものではないほど。 でも、それらを退けれたのは相手が自身より‟非力‟だったから。 彼は見た目に反して力強くオレがどれだけの力を振り絞っても振りほどけない。 「は、なせっ。嫌だ……!」 「暴れんで、汐崎君」 「オレを呼ぶな、気色悪い!!」 ぷつん。と、なにか切れるような音が一瞬聞こえた気がした。 「……そかぁ。気色悪いんか」 さっきとは打って変わって低く囁くような声。 けれど、欲望は静まることなくむしろさらに燃え上がっている。 一体全体どこからか持ってきたか分からない縄を手にした啓影さんによってうつぶせにされる。 抵抗しようとするもやはり容易く抑え込まれあっという間に両手首をきつく拘束されてしまった。 後ろ首をなぞる指の動きが恐ろしい。やめろ、と突き放そうと出した声は酷く掠れていた。 「かぁわい」 「ぅあ……っ」 指が離れていき生温かい息がかかったかと思えばねっとりと首筋を舐めあげられる。それが嫌で嫌で身体を動かそうにもうつぶせな上後ろ手で縛られてるのも相まって身体が痛む。 「あかんよ、暴れたら。身体壊れてまうよ?」 まるで幼子に言い聞かせるように優しい声も今は聞きたくなくて。でも、耳を塞ごうにも両手は不自由だ。 首筋を舐めていたかと思えば柔く噛む。まるでオレの反応を楽しんでいるかのように。 「ぃ、やだ……っ」 「んー?」 「もう、やめろ……!」 「……ああ」 顔が首筋から遠のく。解放されるんだとオレは安堵していた。 でも、それは間違いで。これからが地獄の始まりなんだというように啓影さんは言う。 「他の場所、触られたいんやね」 ぐちぐちと厭らしい水音が鼓膜を震わす。場所はいつしか啓影さんの寝室に移り変わりサイドテーブルから取り出されたローションで勃ちもしないオレのちんこを弄り回す。 ずっと触れてるせいで痛い。なのに、こいつは執拗に勃たせようと触り続ける。 「……勃起せんねぇ?」 不思議そうに言う啓影さんを睨む。当たり前だろ。好きでもなんでもないやつに触れられた所で勃つ訳もない。 だから、もう、やめてくれ。解放を待ち望みながら睨み続ける。 そんなオレを見下ろし啓影さんはニコリと満足そうに笑う。良かった。終わるんだ。 ほっと息を吐いたのが間違いだった。いや、そもそも終わると勘違いしていたんだ。 「汐崎君は煽り上手やな」 「……は?」 こいつは、なにを言っている。理解が出来なくて呆けた声が零れ落ちる。 啓影さんの手がちんこから離れても尚意味が分からないまま睨むことから彼の意図を理解しようと凝視する。 「はよ俺に抱かれたいんやったら言えばいいのに」 なにやらとち狂った発言が聞こえた。違う、と否定しようと思うも声が出ない。 キス、された。初めて、をこんな奴に奪われた。 女でないにしてもそれはショックだった。この先も彼女とかを作るつもりはなかった。 誰のぬくもりも知らず1人生きていく気だったのに。 なんで、こんな気の狂った奴に奪われなきゃいけないんだ。 文句を言おうと口を開くと無遠慮に口内に潜り込む啓影さんの舌。 「……っ!」 出てけと舌を追い出そうと彼の舌に自身のを合わせれば絡ませ始めた。舌先をなぞられ時に歯列をなぞり。 我が物顔で口内を荒らしていく。 「ん、ん……っ!」 「ふ……、かわい」 嫌だ嫌だ。やめてくれ。そう願うのに口内を荒らす動きは止まらない。 だんだんと息が出来なくなり息苦しさを感じ唯一自由の足をばたつかせる。 「ぷは……っ」 離れた口にほっとしながらも久々の酸素に噎せてしまう。 「ディープキス初めてやった?」 問いに丁寧に答えるほどオレは優しいわけでもない。きっとキツく睨む。 でも啓影さんの笑みは深まり「涙目で睨むなんてやっぱ誘っとるやろ」 「だ、れがっ」 「うんうん、分かっとるよ。汐崎君は照れ屋やもんね」 勝手なことをのたまうこいつになにか文句を投げかけようとした。 でも、オレの口から出たのは悲鳴だった。 「ひ、ぃ"……!」 「ああ、ごめん。ローション足りんかった? けど、初めては痛いんやって。我慢してな?」 尻の孔に入れられた指がゆっくりと中に入り込む。そんなとこ使うなんて思わないしこれからもないと思っていた。 なのに、今、それはされるんだという現実を知らしめてきた。 痛い、と泣き言なんて言いたくなかった。言ったらお終いな気がして歯を食いしばり堪える。 「やっぱ狭いわ。自分でもここ使わんの?」 当たり前だ、と言いたいのに今声を出せば情けない声しか出ないと分かっているためあえて答えない。 ぐぷぐぷと狭い中を指が好き勝手に動く。気持ち悪い! いつになったらこの地獄から解放されるのだろうか? 「もう1本入れるな」 前置きされ2本の指で中をいじられる。痛みも増え気持ち悪さも増える。 もう終わらせてくれ……! 「も、うやだ……っ」 懸命に抑えていた弱音が言葉になった。帰りたい。家に帰って、これは夢だと自分に言い聞かせたい。 「……」 「っ"あ……!」 無言のまま指が引き抜かれる。終わる、やっと終わるんだ! 知らずのうちに笑みを浮かばす。 「はよ入れてほしかったんか」 「は……?」 こいつは、なにを言ってるんだ。訳が分からなくて啓影さんを見つめる。 チャックが下ろされる音が聞こえた。まさか。嫌な予感がし下を見やる。 既にガン勃ちの、それが見えた。オレのよりデカい。おそらく日本人の平均よりはデカい。 なんて現実逃避をしようとつい分析をしてしまう。 こいつはさらに勃たせるためにちんこを数回扱くと孔に宛がう。 「ずっと見つめとるんかわええなぁ♡ちんこ、勃起せんかったのもはよメスになりたかったんやね♡」 「違う……!」 「ほんま素直やないね。でも、そこがかわええわ。好きやで」 「オレは、お前が嫌いだ!」 すっと彼の目が細められマズいことを言ったんだと瞬時に察する。 お仕置きせんとね、と彼の唇が動いた気がした。 「ぃ"、あ…ぁあッ!!」 一切の遠慮なく奥までそれは入ってきた。無理矢理拓かれた痛みが酷く両目から涙が溢れる。 逃げようと不自由な両手首を動かすもただそれは手首に傷を付けるのみ。なんの意味も持たなかった。 「はー……♡汐崎君の中気持ちええわ♡でも、ちゃあんと……ここで感じるようにさせんとね?」 「ぅ、あ"、あッ! うご、くな……ぁ!」 腰を掴まれ力強いピストンに弱々しく首を左右に振る。 気持ちいい行為でもなんでもない。ただ苦痛を伴う行為。 ぐちゅぐちゅと聞こえるのはローションと強引な性行為により孔が切れ出た血が混じっているのか。 もう、分からなかった。これが早く終わるようにと願うしか、できなかった。

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