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第10話
啓影が満足するまで身体を繋げ意識を失ったソリテの身を清め彼を部屋に送り啓影は自室に戻った。
『俺のこと、好き?』
思わず聞きそうになった言葉が未だ離れられない。それに彼が応えてくれたとしても胸の奥にある乾ききった愛されたいという思いが潤うことはない。
ソリテがこんな自分を愛してくれても彼への思いも欲も溢れるばかりだった。
「あかん……なぁ」
前はただ彼をつなぎ止めたかった。どんな理由であれ自分に繋げていたかった。
離れないように。どこにも行かないように。誰も彼を見ないように触れないように。
大事に仕舞って おけば満足だった。
愛されなくてもいい。一方通行の想いでも構わなかった。
なのに、もっとそれ以上を望んでまう。バケモノが人らしくあろうとするのなんて滑稽すぎん?
どんな道化師やってそんなことせんわ。
「はぁ……好き、やなぁ……」
目を覚ましたソリテは時計を見やり1度起きた後窓に視線をやる。夜の帳が降りきった森の中は真っ暗だ。
「……あいつのことを、オレはどう思ってんだろ」
夕食を食べに行こうかとも思うがそれ以前に啓影の問い掛けを思い出す。
恐らく好きかどうか聞こうとしたのだろう。あの時は暴力的な快楽に襲われ考える余裕もなかったが、今なら考えれるかもしれない。
けれど、いくら首を傾げたって答えなんて出なかった。
両親の姿を見て恋愛というものをするのが怖かった。愛だ恋だに溺れたくなかった。
それにオレは母さんに愛されていなかったしな。
自嘲的な笑みがこぼれながらもう一度考える。自分は啓影の事が好きかと。
「……多分、嫌いではない」
確認するように独り言を口にする。レイプ魔だし人を監禁するわで最低な奴なのかもしれない。
確かに最初は嫌いだったかもしれない。でも、今は分からない。
好きではない。けど、嫌いでもない。どうでもいい存在というわけでもない。
そうでなきゃキスされるのも、それ以上の行為も受け入れてないはずだし。
これ以上考えてもいい答えは出ないと思いソリテは自室を出てリビングに向かう。考えるのは苦手だ。答えを得るなら動かないと。
その前にまず食事を摂ろうとリビングに入れば珍しくテレビを見ている啓影がいた。
「おはよ、ソリテ」
「……夜だけどな」
「あはは、ええやんそんな細かいの。……飯食うやろ? 温めるわ」
ソファから立ち上がった啓影は冷蔵庫にしまっていた2人分の夕飯を温め始めた。
椅子に座り待つ間につけっぱなしのテレビに視線をやる。深夜バラエティー番組が流れているが特段面白いものでもなかった。
「食べよ、ソリテ」
机の上に並べられた2人分の夕食に「待ってたのか?」尋ねざるを得なかった。
彼の問い掛けに啓影は頷いた。
「1人で食べるのは寂しいやろ?」
啓影の言葉にソリテは過去を思い出す。母と顔を合わせ食事をすることはなかった。彼女が父と離婚してからは。
温かな食事はなくいつも母が買ってきたコンビニの弁当やスーパーの総菜を一人食べていた。
テレビで見る家族の食事シーンや一緒に出掛けるといったのが羨ましかった。
「お前は、いつも1人なのか?」
「前はな。今はソリテがおるもん」
「家族とか、いるのか」
ソリテの疑問に啓影の食事の手が止まる。
まずいことを聞いたか? と思いどうにか別の言葉をと考えてると啓影は笑いながら言う。
「俺にはおらんよ。生まれた時から、ずーっと一人」
ずっと。彼の言うそれはいったいどれだけの年月だろうか。
何十年。もしくはそれ以上。
それを考えると今浮かべている笑みが酷く痛々しく見えて知らずのうちにソリテは彼の頭を撫でていた。
「……へ」
啓影の口から気の抜けた声に自分のしていたことに気付いたソリテは慌てて手を退かし恥ずかしさに顔を赤く染めた。
「撫でられるとは思わんかったわ」
「いや、オレも、撫でるつもりはなかった」
「ふは。無意識やったん?」
くすくすと笑う啓影はいつもの感じだ。それにどこか安堵しながら止めていた食事の手を進めた。
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