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第11話
好きや愛してるなんて言われても信じることなんて出来なかった。どうしてもその言葉に裏があるんではないかと疑ってしまう。
啓影も同じなんじゃないかと思ってしまう。
こんな取り柄のない男のどこに惚れる要素があるのか分からなかった。顔だって別に整ってる訳でもないし性格だっていい方かと言われるとそうでもないと言える。
学歴だって普通な上に特段賢い訳でもない。
でも、疑ってしまう反面本当なんだとしたら嬉しいと思ってるオレがいるのは事実だった。
母親から生まれるべき存在ではないと生きてること自体が罪のこの咎人に生きていてくれてありがとうと言ってくれるようなそんな風に感じる。
こんなオレでも好きになってくれる人がいるんだという事実に救われる気持ちだった。
「……好き、なのか?」
これが恋というものなのだろうか。啓影が自分を好いてくれているのなら自分も同じ気持ちを返したいと思うこの気持ちは恋と呼ばれるものなのだろうか?
思考を巡らせば巡らすほど堂々めぐりになる。恋をしたことも誰かを愛そうとしたこともなかった。
いや、母親に愛されようと愛そうとしたことはあったか。ふ、と自嘲的にソリテは笑った。
一方通行の愛はそれは本当に愛なのだろうか。届かないものはただの独り善がりの自慰行為に似ているのではないのだろうか。
でも、本当に啓影が自分を愛してくれているのなら、
「応えても、いいのだろうか」
昼食を一緒に取ろうと作った食事をテーブルに並べソリテは啓影の部屋に向かった。ドアをノックしようとしたが起きているかどうか分からない。
第一彼への恋心であろうものを自覚した瞬間なんだか顔を合わせるのが恥ずかしくなった。とはいえ、ここまで来て戻るわけにもいかない。
何度か深呼吸をしいざノックしようとした時ドアが開き驚きで声が出そうになるのを慌てて押し殺し跳ね上がる心臓を落ち着けようと再度深呼吸をする。
「……ソリテ?」
何故彼がここにいるのかと啓影は啓影で驚き目を丸めている。以前なら彼に呼ばれてもなんの感情も抱かなかったのに。変な意味で心臓が跳ねる。
自分より下にある彼と視線を合わせたのもつかの間。思わず少し逸らしてしまう。
どうしてか顔を見れない。前はどうやって見ていたんだっけか。
「あ……昼飯、作ったから」
「わざわざ作ってくれたん? 嬉しい。ありがと」
そう言って本当に嬉しそうに笑う啓影に照れくさそうにソリテは頬を掻いた。
いつもと様子の違うソリテに気付きながらも啓影は知らぬふりをした。いつか彼がその理由を明かしてくれると信じているからだ。
「じゃあ、オレ、先に戻って待ってるから」
背を向け足早にリビングへ戻ろうとしたソリテを手を掴み啓影は彼を止めた。
なに、と振り向くソリテに啓影は背を伸ばし触れるだけの口付けをした。いつもなら振り払われ拭われる。
「ふは。真っ赤やん」
そう揶揄えば見るなとばかりにソリテは手を振り払って今度こそ足早に去っていた。
ああ、かわええなぁ。
ソリテが自分に堕ちたのだと確信できた。前では想像もできない……いや、もしもを期待したあの可愛い姿を実際に見ることができた。
「……逃がさん」
堕ちたのならば簡単に逃がしなどしない。もっと自分に溺れ他所など見る隙も考える隙も与えるつもりはない。
僅かに残る彼の体温を感じる自身の手を握りまるで彼の手に口付ける様に口付けた。
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