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第14話

「ん……」 なにかを作る音が聞こえソリテは目を覚ました。啓影が掛けてくれたのであろうブランケットをソファに起きキッチンへ向かう。 「おはよ、ソリテ」 「ああ、おはよう」 寝たおかげなのだろうか。啓影の顔色はいつも通りでテンションも普段と変わらない。あの弱々しさは幻だったのかと思うほどだ。 「もうちょいで夕飯出来るで」 こくりと頷いてせめてもと食器を用意し彼の指示を聞きながら作られた料理を盛る。 それを食卓に並べ夕食を食べ始めた。 「……なあ、啓影」 カルボナーラを食べる手を1度止めソリテは抱えた疑問を口にしようと彼を呼んだ。啓影はコーヒーを飲む手を止めソリテの言葉に耳を傾けた。 「なんでお前はオレを外に出そうとしない、んだ?」 そんなソリテの疑問に啓影はどう伝えようか悩む。 きっと彼は自分に信用されてないとか思っているのだろうがそれは違う。1ヶ月ほど共に過ごした中で彼が逃げようという意志を捨てたのは分かっていた。 いや、諦めたが正しいのか。人里離れた森の中、逃げれた所で人に会う前に連れ戻されるのをきっと悟っていた。 でも、今の彼は自らの意思でここにいる。 「ソリテを……取られたないから」 考えに考えた答えが子供のような駄々になる。 もっとちゃんとした理由はあるはずやのに。どうしても譲れない信念みたいな、もんなんかな。 お前を取られたないって気持ちは。 「別に誰もオレなんかを取るわけねぇだろ?」 ソリテの言葉に啓影はゆるりと首を振った。 お前は自分の魅力に気付いてへんのやね。ああ、でも、そのままでおってほしいな。ソリテの魅力を知っとるのは俺だけがええ。 「万が一があるやろ。……それに」 「? それに、なんだよ」 「……なんやっけ。忘れてもうたわぁ」 へらりと誤魔化すように笑えば疑うことを知らない純粋なソリテはあっさりと騙される。 どうして外に出したくないと思っているのかという疑問を未だ残したままソリテは食事を止めていた手を動かした。 風呂にまで着いてきそうな勢いの啓影をなんとかなだめ洗面台に映る自分の顔を見た。 いつも貼っている大きめのガーゼに触れた時替えのガーゼを切らしていたのを思い出した。買いに行こうにも啓影のあの様子だと行けそうにもない。 かといってガーゼなしのままという勇気もない。 彼が持っているかどうか聞こうにも理由を問われれば言える訳もない。 「ソリテ」 コンコンと脱衣場のドアがノックされソリテは一旦考えるのを辞めドアを開けた。 「風呂は一緒には入んねぇぞ」 「やっぱあかんかー。……はい、これ」 また一緒に入りたいと駄々をこねに来たと思ったが一瞬残念そうな顔をした後啓影はソリテにガーゼを差し出した。 「……なんで、必要だと思ったんだ?」 「え? なんとなく、やね」 彼のマンションを勝手に引き払いその際必要な荷物を持ってくる時に手荷物に大量のガーゼを見つけた。 量からすると毎日替えているのは明らかだった。 今尚そのガーゼの下に隠された秘密を知ることは出来ていない。でも、なにを隠しているのかはおおよそ予想はついていた。 寝ている時時々魘されているソリテは母親に謝罪をしていた。だからきっと、その秘密は母親に関連している。 顔も名前も知らない人物ではあるものの憎いと思う。ソリテに消えない傷を残し今も尚苦しめているその事実が憎くて羨ましい。 ……ほんま俺は歪んどるわ。そんなんに羨望するとか。 「なんとなくかよ。……でも、ありがとな」 ガーゼを受け取り小さく笑うソリテを見て確かに彼のこの笑顔も守りたいと思う。それと同時に湧き上がる嗜虐心。 相反した気持ちを抑え込みながら啓影はソリテを見つめた。 「お礼なら風呂に一緒に入らせてくれたらええよ」 「却下」 その言葉と同時に無情にもドアは閉められた。

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