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第15話
「啓影、お前に言いたい事がある」
ソリテが作ったスクランブルエッグをつつきながら食べてるとソリテから声をかけられる。
なんやろうか? 不思議そうに首を傾げながら啓影はソリテを見つめた。目の前のスクランブルエッグを本当は目玉焼きにする予定だったと言われてもたいして驚きはしない。
現に彼はそうしようと奮闘していたのに何故か卵はスクランブルエッグと化してしまった。……まあ、理由なんて言わずもがなではあるが。
「隙あらば一緒に風呂に入ろうとするのはやめてくれないか」
予想に反してソリテが発したのはここ数日の自身の行動だった。
もう彼の裸なんで飽きるほど見たのにまだ照れることでもあるのだろうか。飽きはしないが。
「ガーゼの下見られたないん? そんなに」
手を伸ばし大きめのガーゼで覆い隠されてる頬に触れればソリテは少しだけ視線を逸らした。
そこの秘密は裸体になるよりも恥ずかしいものなのだろうか。例えそこにタトゥーがあろうとそれもまた愛しいソリテの1部なので嫌う訳もない。
「……そうだ」
「酷い傷なん?」
例えでタトゥーを出したが隠すとしてもガーゼなんかはったりしないだろう。消せばいいんだから。
なので考えられるのは傷ぐらいだろうか。
「……まあ、多分」
言葉を濁すのは悟られたくないからなのか。
こればかりは少しだけソリテの心を察することは難しい。数回その場所を撫で啓影は手を離した。
人に見られたくない秘密など人間であればなにかしら持っているものだ。今はまだ暴く時ではない。
傷を付けた者に妬む気持ちはあれどソリテの気持ちを無視するほど嫉妬にかられることもない。……はず。
「ガーゼ貼ったままは嫌なん?」
「張り付くとなると、面倒だし」
そういうもんなんかと経験したことのない啓影からすれば未知の体験だ。
なら、仕方ない。諦めるほかない。
「スクランブルエッグ上手やで、ソリテ」
「……目玉焼きにしようとしたんだ。本当は」
「うん。でも、卵フライパンに落としてかき混ぜたらそらスクランブルエッグになってまうで」
啓影の指摘にソリテの視線はどんどん下に下がっていった。可愛いなぁと思う。
不慣れな料理の腕を奮ってなにかを作る姿がひどく愛おしい。例えバケモノである自分に食事という行為が不要であろうと彼の作ったものならなにがなんでも食べたいと思う。
「また今度作ってや、目玉焼き」
「……次はうまく作ってやる」
最近のソリテはよく2階の書斎にいることが多い。彼の為に置いたドイツ語辞書を片手に気になった本を片っ端から読んでいるのをよく見かける。
今日はなんの本読んどるのかなぁ。
紅茶をいれたポットとカップ、そして菓子を乗せた盆を持ちながら啓影は今日の彼の本を予想する。
本人は勉強が苦手や頭が良くないと自虐しているが逆だと思う。彼は勤勉であり学べばすぐにそれらを理解する力がある。
周りの環境のせいでそう思わざるを得なかったのかもしれない。
書斎のドアを開けソリテの姿を探す。天気のいい日は少ない日光を求め窓際の席にいることが多い。
「ソリテー、紅茶を」
持ってきたでと言おうとして啓影は口をつぐんだ。本を開いたままソリテは机に突っ伏して寝ていた。
普段よりも分厚い本を読んで疲れたのだろうか。
盆を邪魔にならない場所に置き眠っているソリテに手を伸ばした。触れても起きない。
「……ふふ」
前と違ってこんな風に無防備な姿を見せてくれることが増えた。
それはソリテが自分に心を開いてくれている証拠だろう。嬉しい。
紅茶は後でもう一度淹れなおそう。今は風邪をひかないようにソリテを運ばないと。
「ソリテ。ちょっとごめんな」
秋とはいえこのまま寝かせていれば身体も傷めるし風邪だってひく。人間は弱いから。
椅子を引いて彼が倒れないようにした後、そっと横抱きにし階段を下りていく。
うーん。軽いなぁ。ここに来た時よりは増えたんやろうけど。
「……ん……?」
「あ。起こしてもうた?」
小さく目を開けたソリテにそう声をかければ緩く首を振ったソリテは甘えるように啓影にすり寄る。
無意識の甘える行動にぐっとこみ上げるものがある。
可愛すぎん? 俺を試しとるんか?
必死に理性を押しとどめながらソリテを部屋に送る。いつしかまたソリテは眠っていた。
「おやすみ」
額に口付け啓影はソリテの部屋を出た。起きたら覚えておけなんて思いながら。
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