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第18話
幼い頃の記憶は嫌な事ばかり覚えていて幸せだった頃の記憶はあまり残っていない。家族写真は母が全て燃やしてしまい1枚も残っていなかった。
父がいた頃は確かに愛されていた気がした。温かい食事もあって外に出ても怒られることなんてなかった。
でも、それが一変したのは父と母が離婚した後だった。用意される食事は全て菓子パンや弁当が多く時々用意されていないこともざらにあった。
母と話すときは彼女の母国語でなければ殴られたし外に出たいと言えば物置部屋に閉じ込められることもあった。
だけど、あの家から保護されて以降は割と普通に暮らせていた。なんて、今なんでこんな昔の事を思い出しているのだろうか。
「……理由は明確なんだけどな」
啓影が家を留守にしているから。広い屋敷にはオレ1人。子供じゃないから寂しいとわめくことはしなかった。
四六時中そばにいたせいだろうと思いながらもどこか沈んだ気持ちを振り払うためソリテはテレビをつけた。
ネットスーパーで欲しかった商品がなかったとのことで数十分ほど買い物に行っているだけ。すぐ帰ってくると頭では分かっていても幼少期を彷彿させる状況に用意された夕食に手も付けれずソファに寝転がりテレビを見ている。
以前の生活なら別に1人でも平気だったのに。
鬱々とする気持ちを蓋するために賑やかなバラエティー番組を見るも面白いと感じない。むしろ孤独感が助長していくような感覚を感じた。
「早く、帰って来いよ」
「……ソリテ、起きて。ソリテ」
「ん……」
身体を揺すられ重たげな瞼をソリテは開いた。
寝ぼけまなこで啓影を見つめ「帰って、きたのか?」尋ねるソリテを啓影は抱き締めた。
「ごめんなぁ、一人きりにして寂しかったやろ」
冗談で言いながら普段の彼の言動を思い起こし笑う。いつもなら照れ隠しで蹴りが来たりそんなことないと否定するのだ。
素直になれないソリテも可愛らしいが素直になったところも見てみたいものだ。
と、思いながら彼の反応を待っているも一向になんのリアクションもない。
不思議に思いソリテの顔を覗こうとしたとき肩に頭突きを食らう。
「あた」
「寂しかった」
「……へ」
聞き間違いなのかと思った。素直に気持ちを伝えてくれるなんてどうしたのだろうか。
嬉しい。いや、めちゃくちゃ嬉しいんやけど……!
「ソリテ、今、」
「わ、忘れろ!」
眠気が醒め真っ赤になりながらソリテは啓影から離れた。
いくら寝ぼけていたとはいえあんなことを言うつもりはなかった。変に思われた絶対。
「無理。忘れん」
ソファから立ち上がろうとするソリテを捕まえ腕の中に閉じ込める。
離せともがくソリテを押し込めキツく抱き締める。やがて諦めたソリテはおとなしく抱き締められていた。
「かぁいいねぇ、ほんまお前は」
「うるさい」
「んふふ、照れとるのも愛らしいわぁ」
追い打ちをかけるように言えば弱々しい頭突きを肩にくらわすソリテが愛おしくてしょうがない。
もっと素直になればいい。もっともっと俺を求めればいい。
溺れるぐらいの愛をあげるから。安心して愛されて愛してや、ソリテ。
「……腹減った」
「遅いけど夕飯にしよか」
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