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第20話
桜が舞う道をソリテがかけだしていく。待ってと両手を伸ばすのに非情にも届かない。
それに加えて両足も地面に縛り付けられたように動かなかった。ソリテの背がどんどん遠ざかっていく。
行かんで。なあ、ソリテ……!
「待って!」
自分の声で目が醒めた。夢。久々に見た、なぁ。
早鐘を打つ心臓を抑えるように深く息を吐き起き上がる。いずれ彼は手の届かない場所に行く。
渡したくないと思うのにそれでもその時は残酷にも訪れる。
どうすれば彼を繋ぎ留めれるのだろうか。どうすれば永遠に自分のものだけになるのだろうか。
分からない。いくら考えても明確な答えが出ない。
「……ソリテ、リビングにおるんかな」
カーテンを引いた窓からほんの少し陽がさす。多分昼頃。
会いたい。無性に会いたい。あんな夢を見たからだろうか。
彼の声が聞きたい。抱き締めて存在を確かめたい。
「啓影、おはよ。聞いてくれよ。今日コーヒーうまく……どうした?」
前よりもうまく淹れれたコーヒーの腕を自慢しようとリビングに姿を見せた啓影に笑みを見せながら言いかけた時普段よりもどんよりと落ち込んだ顔の彼に心配の色を浮かべた。
心配そうなソリテになんて言おうか悩みながらもソリテに近付きぎゅうっと抱き締めた。うまく言葉にできそうにない。
夢は夢だ。いつか現実になろうと今すぐ起こる事でもない。どれだけ足掻こうと必ず起こることに今から憂いても仕方ない。
でも、それでも。やはりこの温もりを手放したくない。
「……ソリテ」
「なんだよ。悪い夢でも見たのか?」
当てずっぽうで言った彼にそうだと言うように肩に額を擦り付けた。
そっか、と優しい声でそう言えばぽんぽんと宥めるように頭を撫でくれる。その優しさに涙が出そうになる。
自分の全てを明かしたわけでもない。今彼がこうしてそばにいるのは自分が彼を閉じ込めたから。
好いていてくれるであろう気持ちも、自分がそう仕向けたから。だから、いずれ外に出てこんな気持ちも忘れる。
……嫌や。忘れんで。ずっと、好きでいて。
どこも行かんで。ソリテは、俺のやから。
「啓影」
「……なん」
「あー……その、な。オレはお前の事……一応、す、きではあるし。不安に思うなよ」
聞き間違いかと思った。好きって言った? ソリテが?
顔を上げもう一度なんて強請るように見ればすっと視線がそらされる。耳が赤いのが見えた。
それを見て不安でいっぱいだった気持ちが嘘のように嬉しさに変わる。初めて好きだと言ってくれた。
「もっかい」
「……言わない」
「ええやん。なあ、言うて? 俺の事好き?」
問えば返ってきたのは脛を蹴る足。ふふ、とつい嬉しさで声が出る。
それを咎めるようにもう一度脛を蹴る彼をぎゅうっと今度は力いっぱい抱き締めた。
「好きやで、ソリテ」
「……、知ってる」
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