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第25話

「……啓影」 「なぁに、ソリテ」 無事リベンジを果たせた目玉焼きを頬張る啓影をじっとソリテは見つめながら声をかければ啓影は首を傾げた。 もしかして目玉焼きにするわけではなく卵焼きにしたかったのだろうか? だからさっきからなにも言わずに見ていたんやろうか? でも、それにしては前のよりしっかりした目玉焼きやけどなぁ。 「……、お前、ガーゼの下見たことあるか?」 予想を外した問い掛けが投げかけられ思わず噎せそうになった。その問いにもし素直に答えていいなら頷くだけだ。 でも、あんなにかたくなに見られたくなかったその場所を彼の知らずに見ていたなんて言えばきっとソリテは傷付く。 「ううん。ないで。なんで?」 だからきっとこう答えるのが正しい。嘘をついてしまうことに胸が痛んでしまうがそれもまあ、仕方のない代償だ。 啓影の答えに「そうか」と信じたのかは分からないがソリテはそうとだけ返して啓影から視線を外した。 少し冷えた紅茶を飲み甘さが足りなかったのか角砂糖を追加して混ぜた。 「別にお前を疑ってるわけじゃないんだけどな。……ただ、あの日変えた覚えがないのにガーゼが新しくなってたから」 信頼は度を越えると重く苦しくなるらしい。今ソリテからの無償の信頼が肩に重くのしかかった。 とはいえ嘘をつくと決めたばかりだ。今更それを撤回するつもりもない。 「知らずのうちに変えたんちゃう?」 しらこい嘘やわ、ほんま。我ながら。 息を吐くように嘘を口にしてまた胸が痛くなった。 「かもな。……悪いな、変な事聞いて」 「んーん。変な事でもなんでもないで。目玉焼き美味いで、ソリテ」 「それはよかった」 美味しいとの感想にほっとしたようにソリテが笑う。 ちょっとだけ焦げているところはあっても前回のと比べるとだいぶ進歩している。 少しべちゃっとしている白米も以前と比べれば食べれるまでになった。前はちょっとだけ、芯が残ってた。 箸を進めながらそんなソリテの成長が喜ばしいと共に遠くへ行ってしまうんじゃないかなんて錯覚してしまう。 「……啓影?」 「ぇ、あ……ごめん。なんもないわ」 驚いたようなソリテの声にはっとすれば彼の手を握っていた。無意識に繋いでしまったようだ。 誤魔化すように笑って手を離せば不思議そうな顔をしたソリテだったが深い意味はないのだろうといつも通りの無表情に戻った。 「ごちそうさん。美味かった」 出された物を全て平らげ手を合わせる。 ん。と短く返される言葉と皿を下げる手を見送った。

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