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抗議 5【※】

「や、めろ……」  その欲求をねじ伏せて、必死に拒絶の声を上げる。が、その声には覇気がない。勢いもなくて、弱々しいものだった。 「そっか。……だけど、本当は気持ちいいんでしょ?」  亜玲がそう言って、乳首を捏ねるように弄ってくる。……そうだ。気持ちいい。気持ちよくて、たまらないんだ。  でも、それを口にするのは負けた気がして。必死に首を横に振る。気持ちよくない。気持ちよくなんて――ない。自分自身にそう言い聞かせていれば、亜玲が笑ったのがわかった。 「嘘つき」  俺の耳元で、亜玲がそう囁く。瞬間、ぞくっとしたなにかが身体中を駆け巡る。背中がのけ反って、声だけで反応してしまう。 「祈、感じてるんだよね。……ほら、ここなんて」  亜玲の手が、俺の身体を伝って、下肢に伸びた。……そこは少し膨らんでおり、俺が感じていたのが亜玲にバレてしまう。  ……いたたまれなくて、目をぎゅっと瞑る。 「気持ちいいんだね。……ところで、どう?」 「……な、にが」 「大嫌いな男に、こんな風に感じさせられちゃう気持ちだよ」  そんなもの、最低に決まっている。そう言いたかったのに、亜玲が俺の唇を口づけでふさぐから。なにも言えなかった。  角度を変えて、何度も何度も口づけられる。まるで、愛おしいものにするような口づけだった。その所為で、俺の頭が混乱する。 (亜玲は、俺のことが嫌いなんだろ……?)  じゃあ、どうしてこんな優しい口づけをしてくるのか。意味がわからなくて、俺は目をぱちぱちと瞬かせていた。  けれど、そう思う俺を他所に、亜玲が俺の首につけられたチョーカーに触れた。そのままツーッと指でなぞって、嬉しそうな笑みを浮かべる。 「どうせだし、俺の番にしてあげよっか」  一瞬、告げられた言葉の意味がわからなかった。……番? 俺が、亜玲の? 「……冗談、きつい」  強く睨みつけて、俺は亜玲のことを拒絶する。先ほどまでのは、まだよかった。  身体をつなげたところで、一回きりで済むだろうから。しかし、番はよくない。 「お前の番なんて、死んでもごめんだよ……」  視線を逸らして、強がってそう言うことしか出来なかった。俺はオメガだ。だから、アルファの亜玲は俺を番にすることが出来る。……でも、それで苦しむのは俺だけなんだ。  アルファの亜玲は、いつだって俺のことを捨てられる。 「そっか。……残念」  亜玲が笑って、チョーカーから手を離す。それに、ほっと胸をなでおろす。 「……お前、本当に最低だな」  ぽつりと、そんな言葉が口から零れた。遊びで俺を抱こうとするばかりか、番にするなんて冗談まで言って。 (亜玲は最低だ。俺の恋人を寝取って、いつもいつも俺を見下して……)  ぎゅっと唇を結ぶ。なのに、憎しみを抱けないのは……間違いなく、昔の亜玲が頭の中に残っているから。  もしかしたら、あの天使のような亜玲に、戻ってくれるのかもなんて淡い期待。それを、捨てきれない。 「……祈のほうが、ずっと最低だ」  ぽつりと、そんな言葉が降ってきた。驚いて俺がそちらに視線を向ければ、亜玲はただぼんやりとした表情を浮かべていた。 「大体、俺をこんな最低野郎にしたのは祈だ」 「……は?」  こいつは一体、なにを言っているんだ。 「俺がこんな風になったのも、全部祈の所為なんだ。……だから、責任取ってもらわなくちゃならないんだ」  熱に浮かされたかのように、ぼうっとしながら亜玲がそう呟く。……意味が、わからない。どうして、俺が――。  そう思っていれば、亜玲が俺の上から退く。その後、軽々と俺のことを横抱きにした。  亜玲の足が向かう先は、室内。……そのまま近くの扉を開けて、器用に電気をつける。  室内には、シンプルなベッドがあった。……ここは、寝室だ。それを、悟る。

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