10 / 11
抗議 5【※】
「や、めろ……」
その欲求をねじ伏せて、必死に拒絶の声を上げる。が、その声には覇気がない。勢いもなくて、弱々しいものだった。
「そっか。……だけど、本当は気持ちいいんでしょ?」
亜玲がそう言って、乳首を捏ねるように弄ってくる。……そうだ。気持ちいい。気持ちよくて、たまらないんだ。
でも、それを口にするのは負けた気がして。必死に首を横に振る。気持ちよくない。気持ちよくなんて――ない。自分自身にそう言い聞かせていれば、亜玲が笑ったのがわかった。
「嘘つき」
俺の耳元で、亜玲がそう囁く。瞬間、ぞくっとしたなにかが身体中を駆け巡る。背中がのけ反って、声だけで反応してしまう。
「祈、感じてるんだよね。……ほら、ここなんて」
亜玲の手が、俺の身体を伝って、下肢に伸びた。……そこは少し膨らんでおり、俺が感じていたのが亜玲にバレてしまう。
……いたたまれなくて、目をぎゅっと瞑る。
「気持ちいいんだね。……ところで、どう?」
「……な、にが」
「大嫌いな男に、こんな風に感じさせられちゃう気持ちだよ」
そんなもの、最低に決まっている。そう言いたかったのに、亜玲が俺の唇を口づけでふさぐから。なにも言えなかった。
角度を変えて、何度も何度も口づけられる。まるで、愛おしいものにするような口づけだった。その所為で、俺の頭が混乱する。
(亜玲は、俺のことが嫌いなんだろ……?)
じゃあ、どうしてこんな優しい口づけをしてくるのか。意味がわからなくて、俺は目をぱちぱちと瞬かせていた。
けれど、そう思う俺を他所に、亜玲が俺の首につけられたチョーカーに触れた。そのままツーッと指でなぞって、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「どうせだし、俺の番にしてあげよっか」
一瞬、告げられた言葉の意味がわからなかった。……番? 俺が、亜玲の?
「……冗談、きつい」
強く睨みつけて、俺は亜玲のことを拒絶する。先ほどまでのは、まだよかった。
身体をつなげたところで、一回きりで済むだろうから。しかし、番はよくない。
「お前の番なんて、死んでもごめんだよ……」
視線を逸らして、強がってそう言うことしか出来なかった。俺はオメガだ。だから、アルファの亜玲は俺を番にすることが出来る。……でも、それで苦しむのは俺だけなんだ。
アルファの亜玲は、いつだって俺のことを捨てられる。
「そっか。……残念」
亜玲が笑って、チョーカーから手を離す。それに、ほっと胸をなでおろす。
「……お前、本当に最低だな」
ぽつりと、そんな言葉が口から零れた。遊びで俺を抱こうとするばかりか、番にするなんて冗談まで言って。
(亜玲は最低だ。俺の恋人を寝取って、いつもいつも俺を見下して……)
ぎゅっと唇を結ぶ。なのに、憎しみを抱けないのは……間違いなく、昔の亜玲が頭の中に残っているから。
もしかしたら、あの天使のような亜玲に、戻ってくれるのかもなんて淡い期待。それを、捨てきれない。
「……祈のほうが、ずっと最低だ」
ぽつりと、そんな言葉が降ってきた。驚いて俺がそちらに視線を向ければ、亜玲はただぼんやりとした表情を浮かべていた。
「大体、俺をこんな最低野郎にしたのは祈だ」
「……は?」
こいつは一体、なにを言っているんだ。
「俺がこんな風になったのも、全部祈の所為なんだ。……だから、責任取ってもらわなくちゃならないんだ」
熱に浮かされたかのように、ぼうっとしながら亜玲がそう呟く。……意味が、わからない。どうして、俺が――。
そう思っていれば、亜玲が俺の上から退く。その後、軽々と俺のことを横抱きにした。
亜玲の足が向かう先は、室内。……そのまま近くの扉を開けて、器用に電気をつける。
室内には、シンプルなベッドがあった。……ここは、寝室だ。それを、悟る。
ともだちにシェアしよう!