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悲しき坤澤の運命⑥

 雨露期(ヒート期)は普通、抑制剤を使わなければ2~3日続く。翠花(ツイファ)の発情を聞きつけた男達は次から次へと花屋に押しかけ、後を絶たない。翠花はそんな男を次から次へと相手にしなければならかった。 「はぁ! あ、あ、あぁ!」  もう何度目の絶頂だろうか。男が入れ替わる度にどんどん敏感になっていく翠花の体は、飽きることなく男達から精液を奪い取って行く。それでも冷めることのない自分の体が、汚らしい化け物のように思えた。 (もう自分が人間じゃないみたいだ)  それでもそんな心とは裏腹に、男に揺さぶられ続ける翠花の体は嬉々として熱い昂ぶりを咥え込んで離さない。そんな翠花に全ての男達が陶酔していった。 「こんな美しく、淫らなだけでなく……素晴らしい能力まで持っているなんて。なんて素晴らしい男なんだ……」  翠花を組み敷いた男がうっとり微笑む。 「雨露期に抱かれた男に幸福をもたらすなんて……この瞳は、神の瞳だ」  そう呟きながら、愛おしそうに翠花の顔を撫でた。  鬼神(きじん)の生まれ変わりとされる黒色以外の瞳を持って生まれてきた坤澤(オメガ)達は、様々な能力を持っていた。それぞれ容姿や性格が異なるように、その能力もまた異なるものだった。共通しているのは、その能力は雨露期の時にだけ発揮され、男の乾元(アルファ)だけがその恩恵にあやかれるという点。  鬼神と呼ばれた月玲は、雨露期に自分を抱いた男に災いをもたらす力を持っていたとされ、忌み嫌われていた。また、とある鬼神の生まれ変わりとされる坤澤は、自分を抱いた男の寿命を奪ったり、不幸な事故に遭わせたりしたという。  だが彼等を抱いた男達は、口々に「鬼神の生まれ変わりの抱き心地は、まるで神に召される瞬間のような快感を伴う」と言うのだ。そして、まるで何かの中毒者のように足繫く売春宿へと通い、大金を払って彼等を抱いた挙句、不幸な最期を迎える。  それでも尚鬼神の生まれ変わりとされる坤澤を求める男たちは後を絶たず、雨露期になると一般の町民では手出しができない程の高値で売れるのだ。  そんな中翠花は、自分が抱いた男に幸福をもたらす能力を持つ……と言われている。  ある男は商いが大成功し富豪へと駆け上がり、ある男は怪我が治り病も完治した。翠花を抱いた直後に良い縁談に恵まれた、などという話もあるくらいだ。  そんな噂は遥か遠方まで響き渡り、津々浦々から雨露期の翠花を求めて男達が花屋を訪れるようになったのだった。  雨露期になって、もう何日たっただろうか。翠花は少しずつ体の火照りが治まっていくのを感じていた。この数日、食事さえままならい程に大勢の男を相手にしていた気がする。あまりにも夢中になり過ぎて、自分を抱いた男の人数も、顔すら覚えていなかった。 「喉……渇いた……」  翠花は水の入った小瓶にそっと手を伸ばす。飲み込んだ水は、散々喘ぎ続けた喉にヒリヒリと沁みた。  男達が体中につけた鬱血痕や歯型からは血が滲み、手首には乱暴な客が翠花を押さえつけた時にできた痣もある。後孔はジンジンと痛み、少し体を動かしただけで痺れるような痛みが走った。 「ようやく終わった……」  翠花は布団に顔を埋めた。

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