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皇帝陛下を待ち侘びて②
桜の宮の中には、玲玲 と明明 以外にもたくさんの女官がいるようだ。皆、一様に桜色の着物を着ていた。
「そっか……」
仔空は昨日『百合の宮』に行った時のことを思い出す。百合の宮の女官達は皆が白い着物を着ていた。きっと、その宮の象徴となっている花と同じ色の着物を着ているのだろう。
「仔空貴人 。ここにいる女官達は、全員中庸 なのでご安心くださいませ」
明明の言葉に、仔空はそっと胸を撫で下ろした。
「さぁ、貴人。朝食の準備が整っておりますので、居間までお越しください」
「お着替えをお手伝い致します」
仔空の着物に伸ばしてきた玲玲の手を、そっと遠のける。
「着替えくらい、自分でできます。着物をください」
「そんなぁ! そんなことをしたら、私達が叱られてしまいます」
自分と大して年の変わらなさそうな少女達に着替えを手伝ってもらうなんて……想像しただけで、仔空は顔から火が出そうだった。
「昨夜は皇帝陛下がそのお寝巻に着替えさせてくださったのですよ」
「え、皇帝陛下が?」
「はい。仔空貴人をそれはそれは大切そうに抱えて寝台に寝かしつけられて。皇帝陛下が直々にお体を拭いてくださった後、お寝巻に着替えさせてくださったのです」
「皇帝陛下が、僕の体を拭いたんですか!?」
「はい。私共には『手を出すな……』と。仔空貴人は本当に皇帝陛下に寵愛されているのですね」
玲玲はうっとりしながら、頬を赤らめている。
「皇帝陛下が、お妃のお体を拭いてさしあげることなど、前代未聞のことでございます! 貴人は、余程皇帝陛下に大切にされているのですね」
「はぁ……そうですか……」
「はい! では、お着物に着替えてから、お髪を梳きましょう。朝食が冷めてしまいますよ」
やがて湧いた感情は諦めだった。鼻歌を歌いながら着物を取りに行く玲玲を、仔空はボンヤリと見送る。
「皇帝陛下が僕の体を拭くなんて……ありえないだろう」
頭を抱えて蹲った。
「おはようございます。仔空貴人」
「おはようございます。香霧 さん」
「おや、表情が優れないようですが、眠れませんでしたか?」
浮かない顔をしている仔空を、心配そうに香霧が覗き込んでくる。
「昨夜は、陛下もずっとこちらで休まれていたのですよ」
「陛下が……ですか?」
「はい。昨夜は仔空貴人の傍にずっとついておられて、今朝早く公務に向かわれたのです」
「そうなんですね。全然知りませんでした」
「しばらく、陛下はお忙しくなるかもしれません」
「わかりました」
仔空が俯きながら、ポツリと呟く。
(陛下にお会いできないなんて、ちょっと不安だな……。何も起こらなければいいけど……)
いつの間にか玉風 を頼りにしていることに気付いた自分に、仔空は戸惑いを感じていた。
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