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皇帝陛下を待ち侘びて③

 居間に置かれている卓には、所狭しと豪華な朝食が並べられている。  「こんな豪華な料理は、僕には勿体ないです」 「陛下の命で仔空貴人(シアきじん)の為に用意したものですから。遠慮なく召し上がってください」  春の日差しのように微笑む香霧(コウム)が、諭すように仔空に答えた。 「これからは、他人に世話をされることにお慣れください。仔空貴人には負担になるかもしれませんが、貴方様は皇帝陛下が大切になされているお方なのです。どうか、慣れるまでは我慢なさってくださいね」  ひと悶着の後ようやく着席したかと思うと、香霧がおもむろに食事を自分の口へと運び始めた。香霧は味を楽しむ訳でもなく、その作業を黙々と続けている。 「あの……香霧さんは何をなさっているのですか?」 「あぁ、これは毒味ですよ」 「毒味……?」 「はい。いつどこで、仔空貴人の命を狙っている輩が毒を仕込んでくるのかわかりません。そのため、このように私がまず毒味をさせていただいております」 「え!? それでは……!?」  仔空は体を乗り出し香霧の腕を掴んだ。 「もし食事に毒が盛られていたら、香霧さんが死んでしまうじゃないですか?」  驚く仔空の顔を見た香霧が、ニッコリと微笑んだ。 「いいのですよ。私共は皇帝陛下の為に命を捨てる覚悟でお仕えさせていただいております。ですから、陛下に寵愛されている仔空貴人の為にこの命を捧げることは、私にとっては幸せなことなのです」 「そんな……」  売春屋である花屋で暮らしていた頃は、仔空は幸せでこそなかったが、命の危険を感じることはなかった。 「この後宮には、仔空貴人の命を狙う者が掃いて捨てる程います。十分にお気をつけください」  香霧のその言葉に、仔空の背中をゾワゾワッと悪寒が走り抜けて行った。 「ご馳走様でした」 「え? 全然召し上がってないですよ?」 「はい。でも、もうお腹いっぱいで……申し訳ありません」  心配そうな顔をする香霧には申し訳ないが、「毒が入っているかもしれない」などと言われた食事を「美味しい美味しい」と食べられる程、仔空は図太くはない。 「仔空貴人はもともと華奢なのですから。たくさん召し上がってくださいね」 「はい。ありがとうございます」  仔空は両手を合わせて一礼をした。 「貴方には、いずれ皇太子殿下を産んでいただかなければならないのです」 「……はい。承知しております」 「申し訳ありません。なんだか責めるような言い方をしてしまいました。ご無礼をお許しください」 「ちょっと、香霧さん、やめてください! どうぞ、頭を上げてください!」  自分に向かって深々と頭を下げる香霧に、仔空は焦ってしまう。そんな仔空を見た香霧は、ニッコリと微笑んだ。 「本当に、仔空貴人は優しいお方ですね。さすが陛下がお選びになられた方です」 「いえ、そんな……」  香霧は玉風とまた違った美しい容姿をしている。玉風(シーフォン)を煌々と輝く太陽に例えるなら、香霧は優しい光を放つ月のようだ。  

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