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皇帝陛下を待ち侘びて④
「ところで、仔空貴人 の不思議な能力について、少し調べさせていただきました」
「え?」
香霧 の言葉に、仔空が顔を引き攣らせる。
「『鬼神 』の生まれ変わりとして皆に恐れられていた貴方が、雨露期 の時にだけ発揮される不思議な能力。仔空貴人の『人を幸せにする力』には、大きく分けて2つあるようです」
「2つ?」
「はい。1つ目は病気や怪我を治す力です」
香霧が穏やかな口調でゆっくりと話し出した。
「医者から不治の病と診断され薬もないと言われていた者が、貴方を抱いたことで完治した……という話が多数実在しています」
「…………」
「それからもう1つの能力は……」
仔空は妙な胸騒ぎを覚える。
「子供を作る能力のない男に、子宝を授ける力です」
「子宝?」
「はい。ずっと子供ができずに悩んでいた男性が、貴方を抱いた直後に子宝に恵まれる……この話もよく聞きました」
仔空自身も、その噂話は人づてに聞いたことがあった。それでもそんなことは俄かに信じられるものではない。それに、他人が子宝に恵まれて幸せな家庭を築こうが、仔空には全く関係のないことだった。
「実は、皇帝陛下は幼い頃に大病を経験されているのですが、その病気を患うと子供を作る能力が欠如してしまうと言われています」
「……はい、そのことは陛下から伺いました」
「そんな陛下ですから、貴方のお話を聞いて藁にも縋る思いだったのかもしれませんね」
「そうですか……」
「ですから、きちんと体調を整えて、雨露期をお迎えくださいませ」
香霧が立ち去った後、仔空の心にはポッカリ穴が空いてしまったようだった。
あんなに美しく見えた桜が今はくすんで見えるし、近くを流れる小川のせせらぎも物悲しく感じられる。
「皇帝陛下に気に入られたのは僕自身ではなくて、鬼神の力だったんだ。運命の番だなんて……馬鹿らしい」
仔空の瞳にたくさんの涙が溜まる。
「僕は、必要とされていたわけじゃないんだ……」
こんな薄汚い坤澤 が、皇帝陛下の寵愛を受けられるはずなどない。それでも、もしかしたらこんな自分でも幸せになれるかもしれない……そんな夢を見た自分が情けなく感じられた。
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