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【第七章】 危険な誘惑①
「美麗 皇后、お腹が大きくなりましたね。もうすぐ可愛らしい皇太子が誕生されることでしょう」
「陛下もきっとお喜びになりますね」
「ふふっ。貴方達、気が早すぎますよ」
「仕方ないじゃありませんか。私達も楽しみなのですから」
皇妃達が顔合わせをする恒例の挨拶会に、玉風 に連れられて向かった。だが仔空 は、部屋の前で立ち止まる。百合の宮の大広間からは、美麗の出産の話題で明らかにご機嫌取りをしている妃達の声が聞こえてくる。美麗もそんな胡麻すりに満更でもなさそうだ。
「元気な男の子を産まなきゃ」
「美麗皇后が元気な皇太子をご出産されることを願ってやみません」
こんなやり取りが聞こえてくれば、仔空は憂鬱になるばかりだ。
「仔空妃よ。好きに言わせておけ」
「陛下……」
「万 妃達は美麗皇后が太子を産むことなんか、全く望んでなんかいない。むしろ母子共々死んでしまえばいいとさえ思っていることだろう」
「え……?」
「皆が皆、自分が太子を産み、皇后になりたいと思っているはずだからな」
玉風は顔色一つ変えず、そう吐き捨てた。
「だが、俺は其方がいてくれれば十分なのだ。もしまた皇妃達に嫌がらせをされたら、すぐ俺に言うのだぞ」
それから玉風は、そっと仔空の首筋に指を這わせた。
「こんな布切れじゃ手当にもならんな。傷つけてしまってすまなかった」
「い、いえ。もう大丈夫です」
仔空は玉風の指から逃れるかのように一歩後ずさる。昨夜の事を思い出すだけで、顔から火が出そうだった。
「では行って参れ。俺も公務に戻る。また今夜も其方の閨に行くからな」
玉風は仔空の額にチュッと口付けをしてから、優しく肩を叩いた。
「失礼致します。仔空が皇妃様方にご挨拶に参りました」
丁寧に声をかけてから、大広間の扉を開く。その瞬間、皇妃達の視線が一斉に仔空の首元に向けられた。美麗のか細い腕が震えているのがわかる。
「仔空妃殿下。その首に当てている布は一体どうしたのじゃ?」
「あ、はい。これは怪我をしたので、陛下に手当をしていただきました」
美麗皇后の問いかけに素直に答えてから、仔空は深々と拱手礼をする。嘘は一切言っていない。
「仔空妃殿下は、陛下と『番』になられたのか?」
「いえ、私は後宮に来てから雨露期 が来ていないので、陛下と番になることはできません」
一瞬、まるで蛇のように目を吊り上げた美麗だったが、ホッとしたようだ。表情が少しだけ和らいでいる。
「そうか……なら良い。私はもうすぐ臨月じゃ。きっと太子の顔を見れば、其方など目もくれなくなるだろう」
「その通りですよ、美麗皇后。陛下はきっと皇太子が可愛くて仕方なくなるでしょうし、皇太子を出産された美麗皇后のこともご寵愛してくださいます」
「きっと、そうなるであろうな」
美麗皇后が笑みを浮かべながら、大きく突き出たお腹を愛しそうに撫でている。
(本当にくだらない……)
仔空は大きく溜息をつきながら、
「私も、元気な皇太子殿下がお生まれになるのを楽しみにしております」
と、再度深々と拱手礼をした。
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