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危険な誘惑⑤

仔空妃殿下(シアひでんか)、どうぞ遠慮なさらずにお食べください」 「どうなさいました? お食事が進んでいないようですが……」 「はい……いただいています」  先程とは打って変わり自分に笑顔を向ける皇妃達と同じ卓に座らせられた仔空に、食欲など出るはずもない。愛想笑いを浮かべていた仔空を気遣ってか、香霧(コウム)が隣の席に来てくれた。 「さぁ、仔空妃殿下、お酒でもいかがですか?」  優しい笑みを浮かべ酒を注いでくれる香霧に、安堵した仔空は一気にそれを飲み干す。全身から力が抜けていくのを感じた。 「香霧さんが来てくれたから、一気にお腹が空いた気がします」 「ふふっ、それは良かった。仔空妃殿下はまだまだお若いのですから、たくさん召し上がってくださいね。それに、陛下が先程からチラチラ仔空妃殿下を盗み見しています。余程心配されているのでしょう」 「陛下が、ですか?」  玉風(ユーフォン)の方を見れば、夏雲と何やら話をしているようだ。 「はい。ですからたくさん食べてくださいね」 「いただきます」 そっと呟いてから、仔空は香霧が用意してくれた食事を頬張ったのだった。 ◇◆◇◆ (なんだ、体がおかしい……)  宴も終盤を迎えようとした頃、仔空は体の異変を感じていた。  体が火照り動悸がするし、呼吸がどんどん速くなっていく。酒のせいか……最初はそう思っていたが、そんな単純なものではないことに気付き始める。  火照った体が疼きだし、胸の突起がすこし衣服に擦れるだけでジンジンと甘く痺れて。肩で息をしないと苦しい程だった。 (……まさか、雨露期(ヒート期)……)  そう考えた瞬間、火照った体から一気に血の気が引いていく。少しずつ、自分の体から雨露期特有の甘ったるい香りが溢れ出すのを感じた。 「ここにいたらまずい」  自然と溢れ出す涙を着物の袖で拭い、香霧に小さく声をかける。香霧も乾元(アルファ)だから、自分がいることで迷惑をかけてしまう……。仔空は一刻も早くこの場を立ち去りたかった。 「香霧さん、僕、体調が悪いので少しこの場を離れてもいいでしょうか?」 「え、大丈夫ですか? それなら私もご一緒に……」 「一人で大丈夫です。香霧さんはここで皇妃方のお世話をしてあげてください」  心配そうな香霧に笑いかけ、仔空は大広間を静かに抜け出した。 「はぁはぁ……あ、はぁはぁ……」  中庭へと続く長く広い廊下をヨロヨロしながら歩いた。とにかく風に当たりたい……。少しずつ大広間から聞こえる騒ぎ声が遠くなっていき、目指す中庭が見えてくる。  中庭から吹き込んでくる夜風が、火照った体を冷やしてくれて気持ちいい。仔空は大きく息を吸った。 「なんで急に……後宮に嫁いでから、ずっと雨露期なんてこなかったのに……」  壁にもたれ掛かったまま夜空を仰げば、輝く星々が瞬いている。  一体この火照った体をどうすればよいだろうか……。  今までは、雨露期となれば、花屋(かおく)に客が押しかけてきた。その男達を相手にしていればよかったのだが……今はそんな手頃な男達もいない。  かと言って、宴会中の今はさすがに玉風に近寄ることさえできなさそうだ。 「とりあえず、桜の宮に帰ろう」  荒い呼吸を整え歩こうとするが、体が震え思い通りに動かない。後孔から温かな蜜が溢れ出し始め、体が切なく疼いた。 (乾元に抱かれたい……陛下、陛下……)  力が抜け、ガクンと膝が折れ、その場に崩れ落ちそうになった体を逞しい腕に抱き留められる。 「陛下……?」  仔空が弾かれたように顔を上げると、そこには玉風によく似た人物が立っていた。

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