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危険な誘惑⑥
「其方が仔空妃殿下 ですか?」
「……え? あ、はい……」
「いい香りがする」
「……夏雲 陛下……なぜここに?」
「貴方が黄龍殿から出て行くのを見て、後をつけさせていただきました」
突然首筋に唇を寄せられ匂いを嗅がれて、仔空はビクビクッと体を震わせる。それと同時に、玉風 以外の乾元 に触れられたことに強い嫌悪感を抱いた。
「これが坤澤 か……初めて坤澤に会いましたが、噂通りに美しい」
いやらしい顔でニヤリと微笑まれれば、その男らしさに欲情を掻き立てられる。体がどんどん火照っていき、目の前の乾元に抱かれたい、と感じていることに気付かされた。
「や、やめてください!」
必死に夏雲の腕から逃れようとすれば、夏雲は狼のようなギラギラとした視線で仔空の体を舐め回すように見つめた。
「今まで女しか抱いたことはありませんが、其方を一目見た時から抱いてみたいと思っていました。あの氷のような男が寵愛する人物に……非常に興味がある」
「…………!?」
「いずれ皇帝になる立場に生まれてきた兄上は、幼い頃から常に命を狙われて生きてきた。いつしかその心は凍り付き、誰かに心を開くことなどなかったのに……そんな兄上が其方に向ける笑顔は信じられないくらい優しい。この体で兄上を誘惑したのですか? 一体どうやって?」
仔空の体を厭らしい指使いで撫でまわし始める。最後の力を振り絞り夏雲の体を突き放そうとすれば、逆に物凄い力で抱き寄せられてしまう。耳をねっとりと舐められた後、そっと耳打ちされた。
「苦しいでしょう? その熱を私がとって差し上げます。優しく、抱いてさしあげましょう……。私と兄上の声はどうやら似ているようです。目を閉じていれば、誰に抱かれているかなんてわからない。だから……力を抜きなさい。大丈夫、優しくしますから……」
もはや仔空には、正常な判断をする力なんて残されていなかった。仔空は完全に、夏雲の手の中だ。
(この乾元からは逃げられない……)
夏雲に体を抱き寄せられるだけで、目の前がグラングランと揺れる。視線が定まらない。フワフワと夢の中にいるようだ。
「仔空妃殿下は本当に可愛らしい。目がまん丸で子供みたいなのに、色香が凄い。雨露期で発情した其方は、どんな風に乱れるのだろうか……」
耳をピチャピチャと舐められ、寒気が背筋を走り抜ける。首を振って抵抗したが、その甲斐なく夏雲に強引に唇を奪われた。
「ん、んんッ! むぅ!」
唇をこじ開けられ無理矢理舌を差し込まれる。ねっとりと舌を絡められた後、ようやく解放された。唇を着物の袖で拭い、弱々しく夏雲を睨み付ける。
「ふふっ。そんな顔をしないでください。せっかく、警戒心剝き出しの其方の料理に、薬を入れることができたというのに……」
「薬……?」
「そうです。其方に気付かれずに、食事に薬を混入しました。私の家来は優秀でしょう?」
「まさか……!?」
「其方の食事に『強制発情薬』を仕込みました」
「強制発情薬……?」
「そう。雨露期ではない坤澤を強制的に発情させる毒にもなる薬です。体が疼いて仕方ないでしょう? さぁ、思う存分楽しもうじゃないですか」
「……う、嘘だ、勘弁してください」
夏雲の腕の中でジタバタと抵抗を試みるが、仔空にはもはや抗う力など残っていなかった。
「兄上に『毒には気をつけろ』って教えてもらわなかったのですか?」
「嫌……離して……」
「いいねぇ。そそられる」
首筋をベロンと舐められる頃には、夏雲の指が着物の中に滑り込み、仔空の敏感な突起をまさぐっていた。
(こんなの嫌だ……やめて……)
心はそう叫んでいるのに体は熱く火照り、雌と化した仔空の体は雄を求めヒクつき始めている。
「薬がよく効いていますね」
「んぁ……ッ。はぁ……あぁッ!」
「可愛い声だ。もっと鳴きなさい。兄上にも聞こえるように」
仔空の着物の中をまさぐり、額に、首筋に口付けられる。
(気色悪い……)
「ここに来る前は売春宿で体を売っていたのでしょう? 客にしていたことを私にもして欲しいなぁ。きっと床上手でしょうから」
「あぅ。あ、あ、あぁ」
嫌なのに、気持ち悪いのに……。乳首を捏ねくりまわされると、涙と一緒に甘い声も漏れ出てしまう。
「今まで散々男相手に股を開いてきた其方が、泣くこともないでしょうに」
「嫌だ、嫌だぁ……あ、あん、あぁ、ッあぁ……陛下……」
「いいね、其方が兄上を呼べば呼ぶほど体が熱くなる」
ヂュッと乳首を吸われチロチロと舌で転がされる。
「気持ちいいですか? どれ、下も触ってさしあげましょうか……」
股間に手を伸ばされた瞬間、さすがに夏雲の手を掴み必死に阻止する。
「お願いです。これ以上、僕に触らないでください」
仔空は最後の力を振り絞り懇願する。今の仔空には、夏雲に許しを乞うことしかできなかった。
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