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冷宮⑥

 夕暮れ時になり、真っ赤に染まった空を眺める。辺りが暗くなり始めると寂しさが押し寄せてくる。  玉風(ユーフォン)がいない留守を預かっているため忙しいのだろうか。いつも自分を助けてくれた香霧(コウム)の姿を、近頃見かけないことも、仔空は寂しさを助長させた。  もうすぐ日が暮れていく。少しずつ日が差す時間が長くなってはきたが、行燈もない冷宮(れいきゅう)は夜になると真っ暗だ。仔空(シア)は蝋燭に火を灯し、ユラユラと揺れる炎を見つめた。 「明日には陛下がお戻りになられるそうです」  にっこり微笑む宦官(かんがん)を見て、仔空は頬を赤くする。 「陛下がお戻りになられましたら、きっとここから出られます。もう少しの辛抱ですよ」 「ありがとうございます」 「仔空妃殿下の笑顔が見られて、私共も嬉しいです」  こんな立場にも拘わらず親切にしてくれる人達がいる。そう思うだけで、仔空の胸が熱くなる。自然に上がってしまう口角を隠すように、両手で顔を覆った。 「なんだろう……」   ふと自分の体の異変に気付き、読んでいた本を卓に置く。 「なんだ、これ……」  体が異常に熱くなり、鼓動がどんどん速くなっていく。呼吸が上手にできなくて、無意識に胸を掻きむしった。 「苦し……ぃ……んぁ、はぁ……」  息をしようともがけばもがく程、頭の中が真っ白になり空気を上手に吐き出すことができない。 「はぁ、はぁ……苦しい……苦しい、よぉ……」  椅子に座っていることも辛くなり、仔空はその場に倒れ込んだ。  次の瞬間、モワッと甘ったるい香りが自分の周りに立ち込める。仔空にはその香りに覚えがあった。そう、乾元(アルファ)を誘惑するために坤澤(オメガ)から放出される『信香(フェロモン)』だ。 「もしかして……雨露期(ヒート期)……」  なぜ、よりによって玉風のいない時に……。苦しさと間の悪さに、ボロボロと涙が止まらない。何かにすがりたくて手を伸ばすけれど、その手は空しく空を切った。 「陛下……陛下……早く、早く帰ってきて……」  息も絶え絶えに玉風を呼んだ。玉風が帰ってくるまで、苦痛を耐えるしか方法はない。もし他の乾元に見つかったら……そう思うと怖くて仕方がない。 「陛下……」  玉風を呼んだところでその声は届くこともなく、静かな空間にただ消えていった。  フワッと誰かに触れられる感触に、仔空はようやく顔を上げる。 (陛下が帰ってきてくれた……。ようやくここから解放されるんだ)  仔空の頬を涙が伝う。体中が玉風を求めていた。  しかし自分の頬を撫でる人物は、仔空が待ち望んだ玉風ではなかった。 「苦しそうですね。助けにきました」  仔空の視線の先にいる人物が、冷たい笑みを浮かべた。

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