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命に代えても⑤

 仔空(シア)は夢を見ていた。幼い自分が両親に抱き締められている、幸せな夢。 「幸せになってね」  そう微笑みかけてくれた。 「父様、母様」  仔空が両親に向かって手を伸ばした瞬間、突然息ができなくなり深い川の中に吸い込まれていく。 「ガハッ!」  苦しさに体をバタバタとさせるが、どんどん体は沈んでいく。自分の吐き出した息が泡となり水面に上がっていく光景に、恐怖を感じた。 「翠花(ツイファ)、私を幸せにしておくれ」 「翠花、翠花……抱かせておくれ」  水底から伸びてくる男達の手が自分を引きずり込もうとする。抵抗してみるが、呆気なくその手に捕らえられてしまった。 「あぁ……僕の人生なんてこんなもんか……」 「仔空」 「……え……?」  自分の本当の名前を呼ぶ声が聞こえる。グイッと強い力で一気に水面へと引き上げられた。水底からもうっすらと見えていた光がどんどん強くなる。引き上げられた仔空は、眩しさに思わず目を細めた。そっと目を開けば、満開の桜が風に舞い上げられ、空高くに飛んでいく光景が広がっている。その淡い桃色が霞んで見えた。 「仔空、生きてくれ……」 「誰……?」 「生きてくれ……」  目の前にいる逞しい男の表情は見えなかったが、懐かしい感覚に思わず手を伸ばす。 「ハッ……」  目を開くと、そこは何度か来たことのある場所だった。周りには誰もいないらしく、辺りは静けさに包まれていた。きっと夜なのだろう、行燈の光がユラユラと室内を灯している。  荒い呼吸を整えながら辺りの様子を窺うと、すぐ隣に温かな存在を感じた。その温もりに手を伸ばし、そっと触れてみる。 「陛下。よかった……また会えた……」  玉風(ユーフォン)は床に座り込み、寝台に顔を突っ伏して寝ていた。皇帝陛下がこんな所で、こんな格好で寝ているなんて……。静かに玉風の体を触れる。 「陛下、こんな所で寝ていたら風邪をひいてしまいますよ」 揺すってみるが起きる気配がない。疲れているのか、目の下には隈ができていた。 「陛下。陛下……」  静かに首に腕を回し抱き締める。 「川底から僕を助けてくれたのは陛下だったのですね。ありがとうございます。わッ……!」  玉風の頬を撫でようとしたら、その手を急に掴まれてしまう。顔を上げると、瞳にたくさんの涙を浮かべた玉風が目を覚ましていた。 「仔空……よかった……」 「陛下……」 「よかった……もう二度とその綺麗な翠色の瞳を見ることができないかと思った……」  自分の腰に抱き付き肩を揺らしながら泣く玉風を見て、仔空は戸惑ってしまう。 「陛下。どうか泣かないでください。僕はここにいますから」 「仔空、仔空……」 「陛下。泣かないでください……あ、ッふ……はぁ」  突然唇を奪われ、息をつく間もなく玉風の熱い舌が口内を這いまわる。 「はッ、陛下……あ、はぁ……ッ」 「仔空……」  玉風の熱い口付けのせいで、呼吸が苦しい。心が甘く締め付けられて体が熱くなった。

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