69 / 83
【第十章】運命の番①
「なんとか命は取り留めましたが、なんという無茶をなさったのですか? 最悪、皇帝陛下まで命を落とすところだったのですよ?」
「はい。申し訳ありません」
「先帝のときには、こんな皇妃はおりませんでしたぞ」
仔空 の首筋を手当てしながら善蕉風 が大きな溜息をつく。全くその通りだから、仔空はただ謝ることしかできない。もし玉風 の身に何かあったら……そう考えるだけで、背筋を冷たいものが走り抜けていくのを感じた。
善蕉風は首に綺麗に包帯を巻いた後、仔空の顔を覗き込む。
「ところで、貴方はこれからどうなさるおつもりですか? もし、香霧 との番を解消できたとしても、坤澤 が一生のうちに持つことができるとされている番はたった一人……もう貴方は、陛下と番になることはできないのです」
「……そうですよね」
「これから先、番のいない人生を歩むこととなる。それがどれ程辛いことか……」
善蕉風が言葉を詰まらせたのを見て、これから自分はどうなってしまうのだろう……と怖くなってくる。唇を噛み締めて、ギュッと握り締めた。
「仔空妃 。体調はどうだ?」
「あ、陛下……」
「ん? まだ少し顔色が悪いか?」
玉風が視線で「出て行け」と合図を送ると、善蕉風は深く拱手礼をした後、桜の宮を後にした。
「体が冷え切っているではないか?」
「いえ、大丈夫です」
「駄目だ。風邪をひいてしまうだろう」
玉風が仔空に布団をかけ、その上から抱き締めてくれる。その温もりに仔空はスッと体の力が抜けていくのを感じた。
(ずっとこの腕の中にいられたら、どんなに幸せだろうか)
玉風に体を預けながら思う。
今回起きた事件で仔空は玉風から疑いの目を向けられることはなかった。それどころか、いつもこうして自分の体を気遣ってくれる。それはとても嬉しいことだけど、番ができてしまった今、皇妃として玉風の傍にいてよいのだろうか……と考えてしまう。
「早く良くなるのだぞ」
「はい」
「よし、いい子だ」
頬に柔らかい玉風の唇を感じて、目頭が熱くなるのを感じる。
ただ、こんなにも自分を大切にしてくれる玉風に、「僕はここにいていいのでしょうか?」と聞くことはできなかった。
ともだちにシェアしよう!