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運命の番⑥

「魂の番である乾元(アルファ)坤澤(オメガ)は互いに一生涯愛し合い、運命を共にする。そんな夢物語みたいな話が、現実に存在するんだ……」  仔空(シア)の心臓が痛いくらいの拍動を打つ。呼吸はどんどん浅くなり、苦しくて仕方ない。肩で息をしながら玉風(ユーフォン)を見つめた。 「これは、洒落にならんな」  仔空から溢れ出す信香(フェロモン)が、玉風の乾元としての本能を覚醒させる。瞳孔は開き、荒々しい感情が冷静な己をどこかに追いやる。強い衝動を抱えた乾元を目の前にして、仔空にもゾクゾクッと興奮が駆け抜けて行った。   「俺まで発情(ラット)しそうだ」 「発情(ラット)してください。僕が全部受け止めますから……」 「其方は、なんでそんなに愛おしいのだ」  一切何の音もしない暗闇の世界。床に置かれている心もとない行燈の明かりと、パチパチと火鉢が燃える音。耳元で聞こえてくる玉風の荒い息遣いが、仔空をどんどん欲情させた。 「仔空妃、其方の目が翠色に光っている」 「目が……?」 「あぁ。キラキラと輝いて、とても綺麗だ」 「陛下……」  何日かぶりの深い口付けを交わす。お互いに舌を絡めとって、甘噛みして。ずっとこんな甘い時間を夢見ていた。優しさの欠片もない、貪りつくようなそんな口付け。気持ちが掻き回されて、思考回路が停止して……。頭がぼんやりするのもまた気持ちがいい。 「陛下、来て……」  玉風の首に腕を回し、耳元で囁く。仔空が顔を上げれば、久しぶりに見る玉風の優しい瞳。暗闇に浮かぶ満月のような瞳に吸い込まれてしまいそうだ。 ──乾元に抱かれたい。  仔空を支配する激しい感情。夢中で、目の前にいる男の唇に貪りついた。 「はぁ……はぁ、んんッ、あぁ……ッ。陛下、激し過ぎます……苦しい……」 「ハァハァ……仔空よ、もう我慢などしないからな……」  優しく、でも余裕なく微笑む瞳の影に、仔空は獣の影を見つける。玉風も完全に発情していた。狂おしいほどに妖艶で、男らしくて眩暈がする。  乾元と坤澤の本能に呆気なく翻弄されていった。  口付けをしながら、スルリと着物を脱がされる。 「もう、其方の中に入ってもいいか?」  自分に欲情してくれているその姿が、仔空は嬉しかった。コクコクと頷けば足を抱え上げられる。後孔に舌を這わせられ、もどかしさから顔を覆った。  仔空自身の付け根から先端までを丹念に舐め上げチュウッと口付けされた瞬間、小さな悲鳴と共に絶頂を迎えてしまった。精液が溢れ出るドクンドクンという拍動に合わせ、 「あぁん! あッ、はァ、んん、あぁ!」  悲鳴のような嬌声が漏れる。蜜が飛び散る度に、ビクンビクンと体を大きくしならせた。 「いい子だ」  それを満足そうに玉風は見つめる。そのまま指が静かに挿入された。 「やぁ……ああ、ン……! あ、あ、あァ……!」  絶頂を迎えたばかりの仔空は、強すぎる刺激に身悶えすることしかできない。 「ビショビショだな」  割れ目から溢れ出した愛液は玉風の腕を伝い、敷布に恥ずかしいシミを作る。 「はぁはぁ……だって……だって気持ちいいです……」 「気持ちいいか?」 「はい……おかしくなりそうなくらい……」 「続けて、大丈夫か?」  本当は今すぐにでも抱きたいだろうに、余裕のない顔をしながらも自分を気遣う玉風を見れば、仔空の瞳から大粒の涙が溢れた。 「大丈夫、大丈夫です……」 「わかった。辛かったらすぐに言うのだぞ」 「辛くないから、お願い、陛下……も、挿れて……きて……!」  玉風は頬に張り付いた仔空の髪を愛おしそうに掻き上げる。 「其方は本当に色っぽいな」  そう呟いた玉風の目の色が変わった瞬間。  後孔に熱いものを感じ、仔空の背中がのけ反る。何回、体を重ねても慣れないこの違和感。玉風の動きが止まった瞬間、ふっと一息つく。一気に根元まで押し込まれた。最奥を突かれ目の前がチカチカする。 「んぁッ……入ってきた……気持ちいい……!」  腹の内側を擦られて余裕などなくなった仔空は、必死に玉風にしがみついた。 「あぁ、ああ! んん……はぁン! 気持ちいい……ねぇ、陛下……もっと奥、もっと奥までください……」  次から次へと零れ落ちる自分の甘い声。魂までもが玉風に抱かれたいと、叫び声を上げた。  体の奥まで犯されて、玉風に全てを奪われていく。  クルッと腹這いにされて、腰を押さえつけられたまま後ろから突かれる。また違う部分を突かれる快感の波が押し寄せた。 「あ、あぁ……! 気持ちいい……陛下……気持ちいい……あ、あぁ…やぁ……!」 「俺も気持ちがいい。其方の中は、温かくて、絡み付いてきて……ハァハァ……止まらない……気持ち良すぎる……」 突き上げられるたびに、仔空の尻から愛液がダラダラと溢れ出し太股を伝う。振り返れば、余裕のない顔をした玉風と視線が絡み合う。 「陛下……」  溜息混じりに囁けば、少し窮屈な体勢で口付けられる。腰の動きに合わせて漏れ出る声を押し殺し、唇を頬張る。皮膚と皮膚がぶつかり合う音に、結ばれた部位から聞こえる卑猥な水音。そして身も心も蕩けきった己の甘い喘ぎ声。その全てが仔空の鼓膜を強く震わせた。 「噛んでください、陛下……噛んで……」 「仔空……」 「僕を、貴方の番にしてください……」 「いいのだな? 慕っておるぞ、仔空。俺は今幸せだ」  ツッと仔空の頬を涙が伝う。確かめるように口付けられた後……。 「んぁ! くぅ……!」  皮膚を引き裂かれる感覚と共に、小さな悲鳴を上げる。  香霧の噛み跡を覆うように、玉風が仔空の項に噛み付いた。同時に仔空は喉を反らせ、果てる。真っ赤な血が首筋を伝い、流れ落ちた。 「仔空……ハァハァ……仔空……仔空……!」 「あ、あ、んぁ……痛い……陛下、あ、はぁはぁ……あぁっ!」  血が溢れ出しても、玉風は噛むことを止めなかった。滴る血を舐め上げ、再び八重歯をたてる。何度もそれを繰り返した。 「仔空よ、……出すぞ……俺の子を身籠ってくれ……!」  「あぁぁぁぁぁ……! やぁあ、んん……あぁ!」 「仔空……ん、あぁ……仔空……!」  バクンバクンという拍動と共に、仔空の中にその欲望を吐き出す。熱いものが最奥に注ぎ込まれるのを感じながら、仔空は寝台に崩れ落ちた。膝がガクガクと震えて、体中が性感帯になってしまったかのようだ。 「これで其方は俺の番だ。ずっと大切にする。死ぬまでな……」 「陛下……僕は幸せです」 「慕っているぞ、仔空」  温かな玉風の腕の中で、この上ない幸せを噛み締めた。

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