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オメガとして5

「出来損ないのベータだったお前にしてはよくやったな」  僕は父に褒められたいからではないし、相手をブランド物として見ていたわけではない。何しろ、僕が樹くんに近寄ったわけじゃない。樹くんが告白してきてくれたからだ。それも僕がベータのときに。まぁ、そんなことは父には知ったことではないだろうけれど。 「結婚はするんだろうな」 「はい。先日プロポーズされました」 「よし。そうしたら子供は早く産め。そうすれば相手に逃げられることはない」  この人はオメガは子供を産む機械だとでも思っているのだろうか。感情はあるのだろうか。この人が父親だということが悲しくなった。 「オメガになったのに連絡もしない、と思っていたら、家のためにきちんと動いていたんだな」  樹くんと番になったのは家のためなんかじゃない。でも、父がそう思っているのなら何も言う必要はない。そう思っているのなら思わせておくのがいい。 「結婚は卒業して早い方がいいだろう。両家顔合わせのときにでも、そう提案しよう」  そう言うと、父は満足そうに帰っていった。どれだけ自分勝手な人なんだろう。そして相手をブランド物だと思っているのも吐き気がする。  父が帰っていっても僕はモヤモヤして気分が悪くて、樹くんに電話をした。 『どうしたの? なにかあった?』  樹くんとはさっきまで一緒にいたのに、穏やかに言ってくれる。樹くんのこの空気感がとても落ち着いて好きだと思う。 「父が来たんだ」 『お父さんが? なんだって?』 「最初は勝手に番契約したことに激怒していたけど、相手が樹くんだと言ったら早く子供を産めって言って帰っていった」 『どんな人か聞いてはいたけど、なかなかだね』 樹くんが電話の向こうで苦笑いをするのが聞こえる。恥ずかしい。 『でも、名前が役に立ったってことか』 「うん……ごめんね」 『優斗が謝ることじゃないよ。それに、なんであれ反対されなかったわけだからいいんじゃない。そのうち、挨拶に行くよ』  そう言って樹くんは小さく笑う。父のブランド主義が恥ずかしい。けれど今さらだ。付き合い始めたときに僕は加賀美の家のことを樹くんに話しているのだから。  僕は、父と話して胸に残ったモヤモヤしたものは、樹くんと話して少しずつ晴れていった。  樹くんはすごい。声を聞くだけで心は落ち着き、胸のモヤモヤだって晴れるんだ。そんなとき樹くんと付き合って良かったと思う。  付き合うのは強引さがあったのは否めない。でも、それは結果として良かったと思う。結果論だけど。僕は今、幸せだということに違いはないのだから。  加賀美のオメガは有力者など、何かしらの勢力を持っている家に嫁いでいく。でも、その中でもKコーポレーションというのは一際すごいのかもしれない。でなきゃ父があんなにご機嫌で帰るはずがない。そう思うと父が、子供は早く産めというのもわかる気がした。

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