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束の間の幸せ6

 式場に着き、僕と樹くんは別々の控室に案内された。 「じゃあ、後でね」 「うん。後で」  控室で準備と言われても、メイクで顔色を整えて、髪をセットして着替えたら終わり。これが女性なら大変なんだろうけれど、男の僕はトータル三十分もあれば準備完了。  準備が終わって、式が始まるまで後十五分くらい残っているので、スマホを見ていると父が入ってきた。思ったよりも早く来たな、という印象だ。早く来たって、何を話すでもない。子供の頃から遠い存在の人だったんだ。今さら親子ごっこは演じられない。 「いいか。先方に嫁いだらとにかく早く子供を産め。加賀美のオメガに求められているのはそれだ。跡継ぎにアルファを産め。間違えてもお前みたいなベータは産むな。わかったな」  最後の日まで、子供、子供。早く子供を産め。言われなくてもわかっている。そして、僕みたいなベータは産むなって。でも産むのはそんなベータだった僕なんだから皮肉だ。  最後までこんなことを聞かされるのなら、来なくてもいいのに。まぁ、父も来たくはなかっただろうけれど、加賀美の長として出ないわけにはいかないんだろう。何しろ、長であり戸籍上の父親なのだから。  でも、これで子供が産まれたときに性別を報告すれば済むので、あまり会うこともない。それは親子としての祝いの報告ではなく、事務的な報告だ。ここでベータだったなんて言ったら、それこそまた出来損ない・役立たずと言われるのだろう。そう考えると気が滅入ってくる。  そうしたところで、樹くんのお義父さんとお義母さんが入ってくる。 「おぉ。優斗くんの優しい雰囲気に良く似合っているね」 「えぇ、本当に。もう、優斗くんも如月の人間なのね。加賀美さん、ありがとうございます」 「いいえ。これが役に立つといいんですが」 「そんなこと。優斗くんが来てくれるだけで十分ですよ」  役に立つ、と僕を物扱いする父ときちんと人間扱いしてくれるお義父さんとお義母さん。すごい違いだ。 「優斗くん。これからなんでも言ってくれ。遠慮はいらないからね」  お義父さん、お義母さんは本当に優しい。 「ありがとうございます」 「何かあったら、私の方に連絡を下さい。加賀美として対処します」  父はこの場では浮くくらいにビジネスライクだ。普段、結婚式に出席するときもこんな調子なんだろうか。僕達は物じゃないのに、父にとっては物としか見えてないのだろうな、と思うと悲しくなった。 「それでは式が始まりますので、ご家族の方はチャペルの方へ移動して下さい。新郎はドアの前で待機して下さい」 「じゃあ優斗くんまた後で」  そう言って、父たちは控室を出て行った。

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