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第3話
店の裏口につけられた馬車に
乗り込まされる。
そこにはメガネをつけた
知的そうな男性が乗っていた。
「よ、よろしくお願いします」
緊張しながら頭を下げる。
「ええ。私は斎田と言いまして、
貴方を買った主人の付き人です。
屋敷に着きましたら、おいおい
説明いたします」
「僕は…」
斎田さんに名前を名乗ろうとしたら
斎田さんが遮る。
「あなたの名前は、改めて旦那様が決めます。
今までの名前は捨ててください」
「あ、はい。分かりました」
実家では酷い扱いを受けていたし
今や赤字の実家の名前などに
執着はなかったけども
改めて「お前は商品だ」と言われた気がして
気持ちが落ち込む。
そうだ。
僕はもう人じゃない。
買われた生き物として振る舞わなきゃ。
そういう振る舞いには慣れている。
極力、自分を殺して相手の希望を汲み取って
実践するのみだ。
気合いを入れるために自分の両頬を叩いた。
それから、お屋敷までの数十分間は
僕も斎田さんも一言も話さず
気まずい空気ではあった。
けども、それ以上に緊張している僕は
あまり気に留めなかった。
「ここです」
緊張して手汗が溢れる両手を
必死に組み合わせていた僕は
斎田さんの一言に顔をあげる。
目の前に広がるそのお屋敷は
僕の実家の10倍は大きい立派なお屋敷だった。
「お、大きい…」
と、呆けていると
「貴方はここで降りてください。
私は馬車を置いてきますので」
と声をかけられ、慌てて馬車を降りる。
この馬車だって、僕の家のものよりも
だいぶ立派で広くて、
揺られている感覚も少なくて
全然酔わなかった。
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