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第9話

恥ずかしくて顔を上げられない。 でも、視線は感じる。 じわじわと顔が熱くなる。 「なかなか似合っている」 「う、嘘を言わないでください… これがご褒美でしょうか?」 蚊の鳴くような声を絞り出した。 「ふっ…、本当に面白いな。 褒美はこれからだ」 「え?」 いうや否や、主様に足を掬われて 僕は抱き上げられていた。 「ええっ!?あの!自分で歩けます! 主様のお手を煩わせるわけにはっ」 「私の部屋では私の好きなようにする。 お前はされるがままで良い」 「で、でも…」 抗議しようとして自分のすぐ上にある 主様の顔を見上げる。 おお…、なんて美しいご尊顔… 斜め下から見ても美しいなんて 世の中は本当に不平等だ。 僕なんて髪は赤いし 目は…、翡翠といえば聞こえはいいけど 放置された池のような緑に見える。 17歳になったはずなのに 同じ年の子から見るとかなり幼く見える。 大きなベッドに降ろされる。 うわぁ…、ふっかふか… 実家では他の家族は皆、良いベッドで 寝ていたけれど 僕は使用人と同等の薄い最低限の布団しか用意されていなかった。 こんなベッドで毎日寝られたら幸せだろうな。 ま、まさかそれが褒美? 一晩、このベッドで眠られることが!? それはとても幸せなことだけれども 僕ごときが主様のベッドを使うなんて… 「なにを考えている?」 仰向けに寝っ転がっている僕に覆い被さり 僕の前髪を避けながら旦那様がいう。 「あ、いえ。素敵なベッドですね」 「気に入ったか?」 「これがご褒美ですか?」 「違うな」 主様がおかしそうに笑う。 僕はそんなに変なことを言っているだろうか? 「綺麗な目だな。まるで支那の宝石のようだ。 くり抜いて飾りにしたら高く売れそうだな」 主様が僕の頬を撫でながら言った。 褒めてもらって嬉しいけど、くり抜く!? 「そ、それだけはどうか…! せめて、片目にして下さい!」 慌てて主様の服を掴む。 「冗談だ。私は私のものを傷つけない。 私のものでなくなるなら話は別だが。 ほら、泣くな。 泣くとより綺麗に見えるぞ」 目をくり抜かれては困ると思い 僕は一生懸命涙を引っ込める。 つまり、主様に捨てられないようにしろということか。 それから、主様は僕の目を見ながら 髪や肌に触れる。 撫でるような手つきに心地よくなる。 こんなふうに誰かに撫でられたことなんてあっただろうか。 「これはなんだ?」 撫でていた手が僕のへその横あたりで止まる。 「生まれつきあるアザです。 気持ち悪いですよね、すみません」   僕が家族から疎まれていたのは 南蛮人のような見た目もあるけど ヘソの横にある紋様のようなアザも 理由の一つだ。 「これはアザなんかじゃない。 おそらく、どこかの種族の印だ。 何処かで見た事があるな…」 主様が何かを呟いているが、 ずっとおへその横を行き来する指が くすぐったくて話が入ってこない。 「あ、主様っ。そこ、もう触らないでっ くださいっ….」 変な声が漏れそうになり、 僕は自分の口に手を当てながら言った。

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