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第13話

「スイさん!?」 僕がやっとのことで歩いていたからか、 斎田さんは僕に駆け寄り、 体を支えてくれた。 「どうして1人で? 旦那様は?」 「主様はお休みしています。 僕は朝のお勤めがあるので」 「そんなもの、今日くらい休んだよろしいのに。真面目ですね、あなたは」 「だって、せっかく僕を選んで 買っていただいたのに…」 「うちの使用人は働く時間が決まっています。 朝から働く者は夕方には休むし 夜働く者は昼過ぎまで休むのです。 スイさんは夜も働いたでしょう」 「でも、お家では朝の5時から夜の0時まで 働いていたので僕は大丈夫です」 「それでは、体が壊れます。 全員が同じ条件で働いているので 特例は認められません。 とにかく、部屋まで運びます」 斎田さんは来ていたジャケットを僕にかけ 横抱きにして持ち上げた。 「そ、そんな!自分で歩けます!」 「歩けてなかったじゃないですか。 それにそんな格好でウロウロされては困ります」 「え?」 き、きづかなかったけど なぜか僕は昨日とは違うデザインの スッケスケの下着を着ていた。 ガウンすら羽織っていない。 斎田さんに見つけてもらわなかったら この格好を他の使用人にも見せてしまうところだった。 恥ずかしくなり、僕は抵抗するのをやめて 大人しく斎田さんに身を預けた。 「僕の名前、主様から聞いたんですか?」 「ええ。スイさんが眠った後に 旦那様から聞きました」 「名前で呼ばれるって嬉しいです。 あ…、主様、僕のことを 何か言ってませんでしたか? 僕、後の方は何が何だか分からなくなってしまって…、き、嫌われたり…」 「旦那様はそんなに夜の相手のことをどうこう言う方ではないですが… 少なくとも気に入らなけれは 朝になる前に追い出されているはずなので 大丈夫なのではないでしょうか」 「それはよかったです」 いや、良くない。 夜の相手って… 斎田さんには僕が主様と何をしたか 知られてしまっているってことだ。 経験値の少ない僕でも流石に 昨夜のことが破廉恥なことであることは 分かる。 娼館にいたままだったら 昨日のようなことを色んなお客さんに買われてさせられるってことだ。 改めて、使用人として買ってくれた 旦那様には頭が上がらない。 あれ? でも、性処理のために買われたという線も 捨てきれてないな。 僕はどっちとして買われたんだろう。 モヤモヤしていると自室に着いていた。 「とにかく、10時ごろまでは休んでください。 食事はお部屋にお持ちします。 10時になったら、今日は別の仕事を任せたいのでお迎えに上がります」 「そ、そんなっ」 「旦那様からの指示です」 「わ、わかりました。何から何まですみません」 「いえ。私としてもイレギュラーばかりで。 まさか使用人として雇った者を気にいるなんて…」 「え?」 「いえ、こちらの話です。 それでは、時間は少ないですが 少しでも体を休めてください」 斎田さんはそう言って一礼すると ドアを閉めてしまった。 とりあえず… 少し眠ろうかな。 使用人用のベッドは 旦那様の部屋のものよりも 断然質は悪いけれども 実家の布団よりもよく眠れそうだった。

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