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第34話

「そういうわけで、瑠璃子さんとの婚約は破談にしたい」 両親にそう言うと、父は「そんな…、長嶺さんになんと言ったら良いんだ…」と頭を抱えたが 母は「やだぁ!啓がそんなこと言うなんてぇ〜!相手が了承したら、ちゃんと私たちにも紹介なさいよ!」とはしゃいでいた。 そのはしゃぐ母を見て、「妻がそう言うなら私も認めるしかないな…」と父も渋々頷いてくれた。 あとはどう、長嶺親子に説明するか… そうこうしているうちに、社長とご令嬢が到着した。 何度か2人で来たことはあるが、毎度こんなに遠いところによく来れるなと感心する。 「まあ!啓様!ますます精悍なお顔立ちになられたのではないですか!?」 と、瑠璃子はすぐにきゃぴきゃぴとはしゃいでいる。 このよく言えば天真爛漫、悪く言えば騒がしいところが、私が婚約をすぐに認めなかったところだ。 だが、瑠璃子は今年で確か18歳くらいだろう。 私よりも10歳近く下なのだから、テンションの差はしょうがないのかもしれない。 この子を傷つけないように婚約を断るのには骨が折れそうだ。 5人で世間話をしたり、仕事や経済、政治の話をする。 私は一応、経営もしているし、一緒に話をしていたが、ご令嬢は先程から飽きたように足をぷらぷらさせている。 「瑠璃子ちゃんには退屈よね。そうだわ、啓。この辺りの街をご案内してきたら良いじゃない?」 「え?」 「まぁ!私、馬車からいつも街を見ていましたけど、ずっと気になっていましたの!ぜひ、ご案内してください!」 揺らした足を見ていた瑠璃子は、私の母の提案に顔を輝かせた。 断れるわけない… 渋々頷いて、瑠璃子を連れて街に向かった。 瑠璃子にとっては、この街で見るものが新鮮なようで、あっちこっちに引っ張られた。 疲れていたが、放っておくと迷子になりかねないのでしっかりと着いていく。 しかしながら…、こんな純粋で無垢で若い女の子をどう振ったら良いんだろう。 スイに会いたい。 日が暮れてきたので「まだ居たい」と駄々をこねる瑠璃子をなんとか連れて家に帰る。 夕食が準備されており、すでに酒を飲んだ父と長嶺社長が大声で笑い合っている。 合流するやいなや瑠璃子は「啓様は本当にお優しくて、ずっと私に付き合ってくださいましたの!街もとても素敵で、私、今からでも住めそうですわ!」と社長に話しかけている。 「そうかそうか!東堂家なら私も安心だ」と、社長はガハハと笑っている。 私と父は、どうしたものかと目配せをした。 長嶺親子の喜んでいる顔を見るといささか断りづらい。 「瑠璃子さんはまだ18歳でしょう?まだ大学校があるじゃないの。それまではまだ決定しない方がいいと思うわ」 と、母が助け舟を出す。 「とはいえ、女ですからねぇ。大学校なんて今更行かなくてもいいんじゃないか?」 「いえ!私はまだ学びたいことがあります! 啓様と同じ経済学を学びたいですわ!」 「女の子も学をつけるべき時代が来ますもの。 私も瑠璃子さんが進学なさるのはいいことだと思いますわ」 どうやら、なんとか即婚約は免れた。 瑠璃子が卒業するまでになんとか断ろう。 大学でいろいろな出会いもあるだろうし あちらから離れてもらえると助かるのだが。 話題は私たちの婚約から離れ、また世間話になり、私は心底ホッとした。 しっかりと長嶺親子を客室に案内して、 自分も自室に戻り眠りについた。

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