34 / 75
第34話
「そういうわけで、瑠璃子さんとの婚約は破談にしたい」
両親にそう言うと、父は「そんな…、長嶺さんになんと言ったら良いんだ…」と頭を抱えたが
母は「やだぁ!啓がそんなこと言うなんてぇ〜!相手が了承したら、ちゃんと私たちにも紹介なさいよ!」とはしゃいでいた。
そのはしゃぐ母を見て、「妻がそう言うなら私も認めるしかないな…」と父も渋々頷いてくれた。
あとはどう、長嶺親子に説明するか…
そうこうしているうちに、社長とご令嬢が到着した。
何度か2人で来たことはあるが、毎度こんなに遠いところによく来れるなと感心する。
「まあ!啓様!ますます精悍なお顔立ちになられたのではないですか!?」
と、瑠璃子はすぐにきゃぴきゃぴとはしゃいでいる。
このよく言えば天真爛漫、悪く言えば騒がしいところが、私が婚約をすぐに認めなかったところだ。
だが、瑠璃子は今年で確か18歳くらいだろう。
私よりも10歳近く下なのだから、テンションの差はしょうがないのかもしれない。
この子を傷つけないように婚約を断るのには骨が折れそうだ。
5人で世間話をしたり、仕事や経済、政治の話をする。
私は一応、経営もしているし、一緒に話をしていたが、ご令嬢は先程から飽きたように足をぷらぷらさせている。
「瑠璃子ちゃんには退屈よね。そうだわ、啓。この辺りの街をご案内してきたら良いじゃない?」
「え?」
「まぁ!私、馬車からいつも街を見ていましたけど、ずっと気になっていましたの!ぜひ、ご案内してください!」
揺らした足を見ていた瑠璃子は、私の母の提案に顔を輝かせた。
断れるわけない…
渋々頷いて、瑠璃子を連れて街に向かった。
瑠璃子にとっては、この街で見るものが新鮮なようで、あっちこっちに引っ張られた。
疲れていたが、放っておくと迷子になりかねないのでしっかりと着いていく。
しかしながら…、こんな純粋で無垢で若い女の子をどう振ったら良いんだろう。
スイに会いたい。
日が暮れてきたので「まだ居たい」と駄々をこねる瑠璃子をなんとか連れて家に帰る。
夕食が準備されており、すでに酒を飲んだ父と長嶺社長が大声で笑い合っている。
合流するやいなや瑠璃子は「啓様は本当にお優しくて、ずっと私に付き合ってくださいましたの!街もとても素敵で、私、今からでも住めそうですわ!」と社長に話しかけている。
「そうかそうか!東堂家なら私も安心だ」と、社長はガハハと笑っている。
私と父は、どうしたものかと目配せをした。
長嶺親子の喜んでいる顔を見るといささか断りづらい。
「瑠璃子さんはまだ18歳でしょう?まだ大学校があるじゃないの。それまではまだ決定しない方がいいと思うわ」
と、母が助け舟を出す。
「とはいえ、女ですからねぇ。大学校なんて今更行かなくてもいいんじゃないか?」
「いえ!私はまだ学びたいことがあります!
啓様と同じ経済学を学びたいですわ!」
「女の子も学をつけるべき時代が来ますもの。
私も瑠璃子さんが進学なさるのはいいことだと思いますわ」
どうやら、なんとか即婚約は免れた。
瑠璃子が卒業するまでになんとか断ろう。
大学でいろいろな出会いもあるだろうし
あちらから離れてもらえると助かるのだが。
話題は私たちの婚約から離れ、また世間話になり、私は心底ホッとした。
しっかりと長嶺親子を客室に案内して、
自分も自室に戻り眠りについた。
ともだちにシェアしよう!