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第35話
翌朝、早い時間からご令嬢が活動していて、
斎田に叩き起こされた。
不満な表情を浮かべていると
「ご令嬢がフラフラされて困るのは旦那様でしょう」と諭された。
確かに…
あまりいろいろな部屋を探索されては困る。
しかも、すでに長嶺社長と斎田は
瑠璃子を見失っているらしい。
「はぁ…。分かった。探しに行こう。
斎田は通常の業務に戻ってくれ」
と言うと、斎田は満足そうに頷き
「失礼します」と部屋を出て行った。
しかしながら、私も特に見当がつかないので
片っ端から部屋を回るしかない。
別館まで行かれていたら見つけるのに時間がかかるな、とため息をつく。
好奇心が旺盛と言うことは
とても良いことだけれども
TPOは大切だな…
滅多に行かない、使用人の部屋を開けたり
各々の仕事部屋も回る。
商人たちは私が来たことに驚き
「どうかなさいましたか!?」と
聞かれたりましたが
「人を探している。邪魔をしてすまない」と
謝りながら回った。
早く見つかってほしいところだ。
何部屋目かわからない部屋のドアを開けると
瑠璃子がいた。
話している先にはスイもいた。
私がスイに特別な感情を抱いていることに
気づかれないように
なんとか瑠璃子を来客室に連れ帰ろうとする。
瑠璃子は何かと勘が鋭くて
少し油断すると本心を見抜かれるかもしれない。
スイは何か言いたげな表情をしていた。
今すぐに自室に連れ帰りたい。
が、ご令嬢の手前、それは難しい。
長嶺親子が帰ったら
スイの部屋を私の部屋と同室にしてしまおうか。
そうすれば、そんな不安そうな表情をしてないか、毎日確認できるのに。
ご令嬢はこの屋敷の探索が楽しかったようで
私の動揺には気づかなかったようだ。
トイレに行くついでに探索するのはやめてほしい。
帰路の時間の話をして
いますぐにでも帰ってもらおうか。
「まだいたい」と駄々をこねる瑠璃子を
両親と協力して説得する。
社長も長旅でお疲れのようで
帰りたそうにしていたのも功を奏した。
いつもより早めにお帰りいただいた。
数時間後、両親も海外支社の方が不安だと
早々に家を出た。
「いつか、その意中の相手を紹介しなさいね」と母が念を押していた。
自室に帰り、すぐにスイを呼んでもらう。
「まだ日中ですが?」
と斎田は怪訝な顔をする。
「別にスイを呼ぶのは、そんな理由だけではない」と不貞腐れる。
私をなんだと思っているのだ。
数分後、スイを連れて斎田が部屋に来た。
スイはまた不安そうな顔をしている。
「スイの部屋を無くそうかと思う」
と、私は切り出した。
途端にスイの表情が真っ青になる。
「ぼ、僕はもう必要ない、ということでしょうか…。僕、掃除でも、調理でも、なんでもやります!ですからっ…、まだ捨てないで欲しいです」
ついぞは泣き出してしまった。
「そう言う意味ではない。私の部屋でスイが寝起きすれば良い」
「へ?」
目から涙を流すスイが驚いた顔をする。
「主様の…、お部屋で…?」
と繰り返した後、今度は真っ赤になった。
「なおさらダメです!!!
主様と同じ部屋なんてダメです!!」
今度は必死に首を振っている。
その姿にムッとした。
「スイは私が嫌いということか?」
「ちがっ!!そんなの、ダメです!
僕なんかがおこがましいです」
嫌々と首を振っている。
理由はどうあれ、そんなに嫌がられると
普通に傷つくんだが。
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