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第36話

※スイ視点     ご令嬢と主様に会ったから なんだか仕事が手につかず、 翻訳も何度も同じところを読まないと 頭に入らない。 うう… ただでさえ、夜のお仕事がなくなるのに この仕事も手につかないなんてダメすぎる… 昼食の時間になり、切り替えるために 食堂で食事をとっていると 斎田さんがそちらを食べ終えたらすぐに主様のお部屋に行けるかと聞かれた。 なんとか頷いたものの、 一体なんの用事だろうと首を捻る。 まさか…、もう用済みだ、と 言われるんだろうか? 確かに殺すなら捨ててくださいとは お願いしてしまったけど… まだ主様の側にいたいと言ったら 強欲だろうか… なんとか食べていた昼食の味が 急にわからなくなってきた。 ここの食事は本当に美味しいのに。 無理やり口に詰め込み、席を立つ。 「急がせてしまった申し訳ございません」 と斎田さんが申し訳なさそう言った。 「いえ!普段は食べ終えている時間なんですけど、今日は時間がかかってしまって」 「何か苦手なものでもありましたか?」 「いえ!僕は好き嫌いは特にないです」 「そうですか」 不思議そうな顔をしつつも 斎田さんは特に気にした風もなく歩き始めた。 その後ろをついていく。 待たせては悪いので急ぎ足だけど いつもよりも足が重たい。 主様の部屋に入ってすぐに言われたのは 僕の自室を取り払いたいと言う話だった。 そんなの、出ていけと言っているようなものじゃないか… 僕は泣きながら、なんとか撤回していただけないかと伝える。 本当は主様の命令なのだから、一つ返事で首を縦に振らなくてはならないのに。 だが、主様は僕を追い出すつもりはなく 主様の部屋と同室にするようにと言った。 夜な夜な、主様のお部屋でしていることを思い出して首を振った。 確かに、行き来はしやすいですけど 疲れた日は部屋に篭っている僕からしたら そんな日も主様のお部屋にいなくてはならないなんて、体が休まらない! わがままを言って申し訳ないけれども それは承認できない。 僕は慌てて「無理です」を繰り返した。 主様が「そんなに私が嫌か」と とても落ち込んだ顔をしている。 「嫌とかではなく、僕の心臓が持たないと言いますか…」 「それなら私も似たようなものだ。 お互い、耐性をつけていこう」 「そ、そう言う話ではないと思うのですが?」 何を言っても撤回する様子のない主様に 僕はまた半泣きになる。 斎田さんに助けを求めるが 「こうなった旦那様はなかなか折れません」と 首を横にふった。 「…、主様も僕がお部屋にいたら休まらないと思うのですが」 「そんなことはない。で、どうなんだ? 首を縦に振ってくれるか?」 「うぅ…。主様がうんざりしたら、すぐにでも僕を使用人部屋に戻してくださいね」  「そんなふうにはならないと思うが、わかった」 「分かりました」 仕方なく、僕は首を縦に振った。 「そうか」と主様は喜んでいる様子だし 「助かります」と斎田さんはホッとしている。 主様は本当に僕なんかをお部屋に入れていいんだろうか。

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