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第37話

大した荷物もないので 部屋の移動はあっという間に終わった。 また仕分けの仕事に戻ろうとしたら 「夜は私の相手をするわけだから、休んでおけばいい」と主様に言われた。 「いえ!でも…」 と、お断りしかけたら 主様は悲しそうな顔で 「私は仕事があるから部屋にはいない。存分に休むといい」と言う。 「え、あ、それでは、お言葉に甘えて…」 「腹が減ったら夕食も摂ると良い」 と、主様は僕の頭を数回撫でて 部屋を後にした。 ふかふかの布団に入る。 主様がいない時にこの部屋に入るのは初めてで、大きなベッドがとても広く感じる。 でも…、そこここから主様の香りがして なんだかそわそわする。 いい匂いなんだけど、この匂いと 恥ずかしい記憶がリンクしているので なんか…、全身が熱くなる。 1〜2時間、特に眠れもせず 布団に入ったまま天井を眺めたけど 流石に暇だ。 ふと壁を見ると、書斎ほどではないが 本棚がある。 海外の本がたくさんある… 僕は気になって、1冊抜き取る。 なにか北欧の童話のようだ。 他の難しそうな書物とは違い、 表紙も子供向けでとっつきやすそう。 パラパラと本をめくっていると 封筒のようなものが出てきた。 「ひらくさんへ」 と子供のような字で宛名が書いてある。 これ…、見ちゃダメじゃないかな とはいえ、少し中身が気になる。 少しだけ…、と便箋を抜き取る。 「いつもあそんでくれて、ありがとう。 おとなになったら、けっこんしてね! るりこ」 るりこ…さん。 今日会った人の名前だ。 小さい頃から主様とご令嬢は 仲が良かったんだ… 胸がズキリとした。 そんなふうに思う資格はないのに。 しかも、ちゃんと手紙を保存しているし 主様も彼女のことを大切に思っているのだろう。 ご令嬢のお家はここから遠いと聞いた。 今日で帰ってしまったみたいだし、 主様は寂しいから僕を代わりにしているのだろうか。 主様がそれを望んでいるのなら 僕はその役割を全うするまでだ。 あんな綺麗な人の代わりが僕? 全然違うと思うけどな… 少しでも、ご令嬢に似せた方がいいのかな。 分かってはいても、胸がズキズキする。 僕は胸の痛みを抑えつつ そっと手紙を本に挟んで 本棚に返した。 その横のアイヌの資料とか 支那の書物とかも気にはなったけど 読む気力が湧かず、布団に逆戻りする。 主様はいつもどこで食事をとっているのだろう。 そんなことを考えていたら ぬるい眠りに落ちていった。

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