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第39話
「こちらがスイさん用の下着になります」
「ありがとうございます」
女中さんがお風呂から少し離れた部屋に連れてきてくれた。
壁には棚があり、部屋のそこここにも衣類用のチェストが置いてある。
「ここにあるのって…」
「すべてが下着というわけではありません。
他の衣服もあります。
もちろん、スイさん用ではありますが」
僕が言わんとしていることに気づいた女中さんが、クスリとしながら教えてくれた。
っていうか、僕が着せられてたのはやっぱり下着だったのか。
他にある僕のために衣服ってなんだろう?
と、思いつつも今日は青い下着を見つけにきたんだ。
「この辺りが下着になりますね。
青色…、あるかしら」
そう言いながら女中さんが引き出しを開け閉めする。
何着か、違った色やデザインの青っぽい下着が出てきた。
どれもこれも面積がやたら少ない…
その中で、僕の想像により近いものを選ぶ。
僕の脳裏にあるのは、ルリコさんが着ていた青いドレスだった。
瑠璃色というのだとどこかの図鑑で見た気がする。
紺色より明るくて、青よりも深みのある…
そして少し光沢のある神秘的な色。
ルリコさんの白肌と軽やかな黒髪によく似合っていた。
彼女を彷彿とさせるような青を身につけたら、主様は少しは寂しさを紛らわせられるかも。
と言いつつも、僕は捨てられないように
ルリコさんのフリをしようとしてるだけだ。
主様のため、なんて建前だ。
「これにします」
理想通り!とまではいかないけれど
瑠璃色に近いものを見つけた。
「こちらですね。それではこのまま、脱衣所までお持ちください。
それにしても…、青にこだわるなんて、スイさんはこの色にこだわりがあるのですか?」
「いえ…、あ…、まあそんなところです」
流石に「主様が好きかと思って」とはいえず、テキトーに頷いた。
「そうですか。スイさんにはもっと明るい色の方が似合いそうですけど…、好きな色のお洋服を着るのが1番幸せですからね。
そういうことでしたら、もっとこういう色のものを増やすようにお伝えしますか?」
「いえ!それは大丈夫です!
っていうか下着ってこんなに要らないですよね」
「ふふっ。旦那様は相当、スイさんで頭がいっぱいなようですね」
「そんなことは…、ないと思います」
そうだと良い、と思いつつも
期待してはいけないと自分を律する。
何より、主様にはルリコさんがいる。
「さ、そろそろ旦那様が戻られる時間になります。それまでにご支度を終えましょう」
「えっもう!?急ぎます!」
僕は見つけた衣服を手に、急いで浴室に戻った。
急ぎつつも、なるべく丁寧に体を洗い、
青色を身に纏う。
同じような青色…、瑠璃色でも
やはり着る人によって印象が違う。
ルリコさんはとても鮮やかに着こなしていらしたのに、僕が着ると顔と体がチグハグに見えた。
何より、僕の赤毛とあまり相性が良くない気がする。
僕が黒髪で黒い目をしていたら
きっともっと素敵になったはずなのに…
落ち込む気持ちを抱えて、
僕は主様への部屋へと向かった。
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