43 / 75
第43話
出発前に主様から紹介された岩崎さんは
じいや、みたいな風貌で
でも、背筋や動作、喋り方は
キビキビとしていた。
斎田さんの上司のようで、
執事業というよりはその長で
執事たちを取りまとめる役をしているらしい。
今回は主様の専属の斎田さんがお屋敷を離れるから、上司の岩崎さんが直々に
使用人たちも取りまとめることになるらしい。
主様に紹介され、僕が挨拶をすると「お噂はかねがね聞いております。頑張り屋だと。それにしても珍しい風貌をしておりますね」と、じっと見られた。
「見た目でハンデを負うことが多かったので、お仕事だけでも精一杯頑張ります」
と、頭を下げた。
主様がしきりに褒めてくださるから忘れかけていたけれど、僕の見た目は悪い意味で目を引く。
仕事の出来が悪ければ、人よりも
ずっと評価を下げられることもある。
「ここでは、ハンデにはなりません。ただ、見つけやすいから、サボったりしたらすぐ目につくでしょうがね」
と、イタズラっぽく言った。
「おかげさまで、いつ主様に指示を出されても、すぐにスイさんを見つけられましたけどね」と、斎田さんも苦笑しながら言った。
目立ってたから、今まであの広い食堂にいても、斎田さんがすぐ横まで迷いなく来てたのかと、納得がいった。
「岩崎さん、あまりスイを虐めないでやってください。それでは、私は出ます」
「もちろんです」
と頷く岩崎さんに一礼し、主様は、斎田さんが開けた玄関のドアをくぐろうとして、今度は僕に振り返った。
「スイ、本当に無理はするな」
「は、はい。主様も、お気をつけて」
と、僕は慌てて答えた。
それでも、最近入らせてもらっている調理場では気を抜く暇がなかったし、
斎田さんがいない分、「そろそろ休憩してください」と、強制的に休憩することもないから
余計なことを考えなくて済むから良かった。
長いのは夜の時間だ。
主様と過ごすため、夕食や入浴は早々に済ませていたのだけど
いつも通りに済ませてしまうと
時間が有り余ってしまった。
あと数時間…、どう過ごそう。
とりあえず、今日着た使用人の服を洗おう。
そう考えて、少し遠いけど洗濯場に向かう。
すると、すでに数人の使用人がいた。
洗い場があくまで待とうと壁に寄りかかると、現在洗っている使用人の会話が耳に入る。
「旦那様もいよいよご結婚なさるのでは?」
「ついにか!?お相手はもちろん、長嶺様なんだろうな」
「そうだと思う。今日だって、長嶺邸に向かったと聞いた」
「やはりな。長嶺様がいらっしゃることが多かったが、嫁にもらうとなるとこちらから出向かないと顔が立たないもんな」
「となると、今日か明日には婚約成立するのか」
「近々、披露のパーティーが開かれるかもな」
「楽しみだな。披露宴となるとかなり我々の仕事も忙しくなりそうだが、祝い事はやっぱり嬉しいものだな」
「そうだな」
と、先客は盛り上がりながら洗濯を終えると、洗濯場を後にした。
かく言う僕は、せっかく順番が来たのに動けずにいた。
今回のおでかけが、主様とルリコ様の結婚のためのもの!?
ショックで、なかなかその場を動けずにいた。
ともだちにシェアしよう!