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第43話

出発前に主様から紹介された岩崎さんは じいや、みたいな風貌で でも、背筋や動作、喋り方は キビキビとしていた。 斎田さんの上司のようで、 執事業というよりはその長で 執事たちを取りまとめる役をしているらしい。 今回は主様の専属の斎田さんがお屋敷を離れるから、上司の岩崎さんが直々に 使用人たちも取りまとめることになるらしい。 主様に紹介され、僕が挨拶をすると「お噂はかねがね聞いております。頑張り屋だと。それにしても珍しい風貌をしておりますね」と、じっと見られた。 「見た目でハンデを負うことが多かったので、お仕事だけでも精一杯頑張ります」 と、頭を下げた。 主様がしきりに褒めてくださるから忘れかけていたけれど、僕の見た目は悪い意味で目を引く。 仕事の出来が悪ければ、人よりも ずっと評価を下げられることもある。 「ここでは、ハンデにはなりません。ただ、見つけやすいから、サボったりしたらすぐ目につくでしょうがね」 と、イタズラっぽく言った。 「おかげさまで、いつ主様に指示を出されても、すぐにスイさんを見つけられましたけどね」と、斎田さんも苦笑しながら言った。 目立ってたから、今まであの広い食堂にいても、斎田さんがすぐ横まで迷いなく来てたのかと、納得がいった。 「岩崎さん、あまりスイを虐めないでやってください。それでは、私は出ます」 「もちろんです」 と頷く岩崎さんに一礼し、主様は、斎田さんが開けた玄関のドアをくぐろうとして、今度は僕に振り返った。 「スイ、本当に無理はするな」 「は、はい。主様も、お気をつけて」 と、僕は慌てて答えた。    それでも、最近入らせてもらっている調理場では気を抜く暇がなかったし、 斎田さんがいない分、「そろそろ休憩してください」と、強制的に休憩することもないから 余計なことを考えなくて済むから良かった。 長いのは夜の時間だ。 主様と過ごすため、夕食や入浴は早々に済ませていたのだけど いつも通りに済ませてしまうと 時間が有り余ってしまった。 あと数時間…、どう過ごそう。 とりあえず、今日着た使用人の服を洗おう。 そう考えて、少し遠いけど洗濯場に向かう。 すると、すでに数人の使用人がいた。 洗い場があくまで待とうと壁に寄りかかると、現在洗っている使用人の会話が耳に入る。 「旦那様もいよいよご結婚なさるのでは?」 「ついにか!?お相手はもちろん、長嶺様なんだろうな」 「そうだと思う。今日だって、長嶺邸に向かったと聞いた」 「やはりな。長嶺様がいらっしゃることが多かったが、嫁にもらうとなるとこちらから出向かないと顔が立たないもんな」 「となると、今日か明日には婚約成立するのか」 「近々、披露のパーティーが開かれるかもな」 「楽しみだな。披露宴となるとかなり我々の仕事も忙しくなりそうだが、祝い事はやっぱり嬉しいものだな」 「そうだな」 と、先客は盛り上がりながら洗濯を終えると、洗濯場を後にした。 かく言う僕は、せっかく順番が来たのに動けずにいた。 今回のおでかけが、主様とルリコ様の結婚のためのもの!? ショックで、なかなかその場を動けずにいた。

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