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第45話

「なるほど…。つまり、啓が瑠璃子ちゃんと結婚するのが嫌ってことか」 「え…、そ、そういうことになるんですかね?」 僕もモヤモヤしていて、自分の気持ちがよくわからない。 伝えられる範囲で伝えた結果、西条さんはそう解釈したらしい。 でも、自分のご主人様が結婚するのが嫌なんて、使用人が思うのはおこがましい。 というか、普通そんなこと思うわけない。 「でも、その…、いやと言うよりは 僕の役目がなくなってしまうことが怖いと言うか…」 「まあ、俺は啓から結婚の話は聞いたことないから、そもそもそれが本当か分からないけどね。 でも、もしもスイくんが路頭に迷うようなことがあれば、俺が君をスカウトしよう」 「へ?」 「もし、東堂家を追い出されたらうちにおいで」 「そ、そんな…、僕、何もできないですよ?」 「いやいや。評価はちゃんと啓から聞いてるよ。 斎田さんも啓も、あんなにベタ褒めしてるのに、今更、スイくんを手放すとは思えないけど」 西条さんの提案は、僕を安心させるための 優しい嘘なのかもしれない。 でも、逃げ道にしていいと言うのならば かなり良い提案だ。 背に腹は変えられない。 お屋敷を出ることになったら 真っ先に西条家に向かおう。 西条さんなら、主様のご友人だし、 その後も少しくらいは繋がりが持てるだろうし。 そこまで考えて、西条さんの厚意を 棒に振るような考えはよそうと思い直した。 「落ち着いた?」 「あ、はい。すみません、ありがとうございます。僕、仕事に戻ります」 「そっかぁ。じゃあ俺も帰ろうかな。 いいもの見たし、いい話が聞けたし」 「その…、どうか主様にはご内密に…」 「分かってるよ。啓には言わない方が面白そうだし」 「え?」 「こっちの話〜!じゃあ、岩崎さんによろしく」 「はい。お気をつけて」 颯爽と立ち上がった西条さんに頭を下げ、 ティーセットを片付ける。 そのまま、厨房に向かおう。 そろそろ昼食の支度が始まる頃だ。 そのお手伝いをさせてもらおう。 バタバタと仕事をしていると あっという間に1日が終わる。 忙しいことに感謝したいくらい。 17時になり、仕事が終わる。 食堂に向かおうとすると岩崎さんがいた。 「旦那様の言う通り、スイさんはよく働かれますね」 「そ、そうでしょうか?調理の方に入ると、どうしても足を引っ張ってしまいます」 「当たり前です。あの者たちが、何年あそこで働いているとお思いで?昨日の今日で、同じ働きができる者はいません。 十分ですよ」 「ありがとうございます」 「ただ…、どうも無理をしているように見えます。何をそんなに習得を焦っているのですか?」 岩崎さんもかなりめざとい人のようだ。 たった1日で見透かされてしまう。 「主様の…、お世話のお仕事を外されても、僕に価値が残るようにしておきたくて…」 と濁して言うと岩崎さんは 「うちの使用人で解雇されることは、ほとんどないですよ。そりゃあ、横領なんてしようものなら分かりませんけどね。真面目にしている分には、ありえないことです」 と、にっこりして言った。 その言葉に少しホッとする。 が、それでも、やっぱり僕は 存在価値が欲しいのだと思う。 主様からの、存在価値が。

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