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第54話

そんなに規模の大きく無い社交会があり、 主様のご両親も参加予定なので 顔合わせついでに僕も参加しなさいと 主様に言われ、僕は斎田さんと共に 服を選ぶことになった。 が、男性用の衣装が全くピンとこない。 優しい斎田さんでさえ、 渋い顔をして次々と服を出してくれる。 「やっぱり、着られている感がすごいですよね」 僕は忍びなくなって言う。 「スイさんは小柄ですから、仕方ないです」 2人で首を捻っていると サンプルの服を持ってきた仕立て屋が 「いっそ、ドレスなんていかがです?」 と提案してきた。 「「ドレス!?」」 僕と斎田さんの声が重なる。 シーマ族?だから、僕は男性では無いけど 見た目は完全に男だと思うんだけど。 「いや…、しかし…、アリかもしれません」 しばらく考えていた斎田さんが 顔を上げた。 「…え?」 「そうでございますよね!物は試しです。 ぜひ、ご試着ください」 「えっ?え、でも…」 「まあ、着るだけですから」 斎田さんにも背中を押されて 僕はしぶしぶドレスを着る。 ドレスは数着しかなかったけど 緑っぽいのを選んで袖を通す。 スーツよりも着るのが難しい。 しかもかなり重い。 規模が小さい社交会とはいえ、 この服でダンスをしろと言われたら かなり手こずってしまいそうだ。 世の中のご婦人はこんなものを着て あんなに優雅に踊っているのだろうか。 「素晴らしいです!お似合いです!」 仕立て屋が明るい声を出す。 でもこれは、スーツを試着している時から同じ反応なのでお世辞だ。 「ええ。こちらはかなりしっくりきます」 「ええ!?」 斎田さんも肯定的な意見を言ったので 僕は驚く。 しっくりくる!? 僕は慌てて全身鏡を確認する。 確かに…、スーツよりは浮かないの…か? でもどう見ても女性には見えない。 「当日はお化粧やヘアメイクもできますから もっとお似合いになるかと思いますよ」 と、仕立て屋が頷いている。 「いや、でも、動きにくいですし」 「ドレスでも踊られるように講師に指導を頼みます、ご安心ください。 あとは旦那様から許可がおりれば ドレスを着ていただくことになるかと」 「ええ!?」 「かしこまりました。採寸だけしますね。 あとの細かいデザインについては、後ほど調整させてください」 仕立て屋がそう言うと、あれこれ 体のサイズを確認されて解放された。 「本当にドレスを着るのですか?」 僕は恐る恐る、斎田さんに聞く。 「旦那様次第ですね。さて、午後からはいつも通り、お勉強となりますので」 とんでもないことになったな、と頭を抱えながらも僕は社交会のマナーの勉強をする。 あんな重い服を着て動きながら マナーなんて守れるんだろうか。

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