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第55話
「と、言うことでドレスを着ても良いでしょうか?」
主様の仕事が終わり、2人で食事をとっている時に意を決して僕は言った。
「ドレス?」
「やっぱり僕がドレスを着るなんて気持ち悪いですよね!主様の許可が降りなければ着る必要はないので…」
「いや、そのほうが都合がいいかもしれないな。
そうとなれば、良いものを仕入れよう」
「ですよね…、え?」
「ドレスとなれば、母にも相談した方がいいかもしれないな。私はそっちはあまり詳しく無いからな」
「え、あの…、僕、ドレスを着るのですか?」
「ああ。今のスイはどう見ても男だから、私が連れてきたとなると、注目されてしまう。
が、ドレスを着ていれば、婚約者に見えるだろうし、その方が都合がいい」
「…、えぇ…?」
絶対、男の姿の方が親戚か何かに見えて
浮かない気がするんだけどな。
あの東堂家の息子が女性を連れてきたとなれば、かなり場が騒がしくなりそうだけど。
っていうか、ドレスを着たからと言って
女性には見えないのでは?
僕が浮かない顔をしていると
「私のそばを離れなければ、どうとでもなる。小さなパーティーだから気を張るな」と
主様が励ましてくれた。
それはそうかもしれないけれど…
ドレスを着た場合の所作を覚え直さなくては
ならないことも地味にキツかった。
それでも、人前で紹介してもらうなんて
今まで経験がなかったことだから
主様に認められたようで嬉しい。
会場で会う人には、社交会の場で
ようやく認められるかどうかが決まるけど。
翌日から、仕立て屋さんが準備した
サンプルのドレスを着てのマナー講習が
はじまる。
スカートの中に色々と仕込むので脱ぎ着が難しく、一日中着続けなければならない。
着終わると同時にすでにうんざりした。
重い。
「スイ様、姿勢がよろしくないです」
講師の先生の檄が飛んでくる。
「すみません」
慌てて背筋に力を入れた。
合わせてヒールのある靴も履かされていて
バランスを取るのが難しい。
ご夫人達は、本当にこんな服を着て、悠々と歩いているのか…、信じられない。
それでもなんとか気合いで乗り切って、
講師を見送る頃には僕の足は立っているのがやっとというところだった。
ズキっと痛みが走り、慌てて靴を脱ぐ。
あちこちの水脹れが割れて、血が出ているところもある。
これはお風呂が染みるだろうな。
救急箱を持ってきて、絆創膏や包帯を巻く。
でないと室内履きが汚れてしまう。
少し風が触れるだけで、ビリビリと痛む皮膚にヒーヒー言いながら、なんとか処置をした。
この足で明日も同じ靴を履くのか?
そう考えると、足がより痛む気がした。
早く習得しなくてはならない。
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