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第67話

「一曲、ご一緒いただけないですか?」 会場に戻るなり、主様が恭しく僕の手を取って頭を下げた。 「勿論です!喜んでご一緒致します」 と僕が答えると、また自然に踊っている人たちの輪へ誘導される。 踊っている間は、僕は無心になってしまうので有難かった。 が、主様の表情は優れていない。 なんだか苦しそうに僕を見つめている。 「先ほどは変なことを聞いて悪かった」 「いえ!僕も上手くお返事が出来なくて…」 「いつかスイの本心が聞けるように気長に努力する。 好いてもらえる努力もしよう」 「え?…、その、つまり、主様は僕が好きなのですか?」 思わず声に出てしまった。 これが勘違いだとしたら、思い上がりも甚だしい。 なんとか誤魔化そうと頭を捻るが、丁度いい言い訳が思いつかない。 主様も動揺したのか、お互い足の運びが若干乱れた。 「変なこと聞いてすみません」 「いや。スイに伝えなかった私が悪いな。 その通りだ。 私はスイに想いを寄せている」 「ええ!?」 「だからと言って、無理に私の想いに応える必要はない。 あくまで、スイは自分の気持ちを大切にしてほしい」 「僕の気持ち…。 僕、人を好きになったことがなくて… 分からないんです。 でも、あ…、啓様と一緒にいたいです」 僕は思い切って告げた。 と、同時に音楽が止み、1曲が終わったようだった。 「今はその気持ちで十分だ。 さて、もう帰るとしよう」 「え?でも、まだ終わるまで相当時間がありますけど…」 「今日は西条の主催で、私の両親もいないからな。 きっと大丈夫だろう。 それよりもこの喜びを早く噛みしめたいんだ」 そう言って満足そうな顔をしている主様に 改めて自分が言ったことの意味を理解し 顔が熱くなる。 確かに、僕も一刻も早く人目から遠ざかりたい。

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