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第69話

それからは穏やかに日々が過ぎ、 毎日講習を受けて、たまに主様に誘われて 夜のお供をしたり、 社交会にも何回か参加した。 以前の僕から比べたら本当に 良い生活をさせて頂いている。 ただ、気がかりな事がある。 僕に二次性徴が来る兆しがない。 主様から急かされることはないけれど 僕がこんな生活ができるのは 子供を産むためだ。 それができないのなら、 追い出されてしまっても文句は言えない。 いっそ、「まだ来ないのか」と 責めてくれれば良いのに。 主様はずっと優しい。 それが辛い。 稀に帯刀さんがいらっしゃることがある。 その度に、主様の目を盗んで 二次性徴について聞いてみるが 「来る条件はまだ分からない」という 返事が返ってくる。 文献が少ないと言うことはわかっているけど シーマ族について頼れるのは帯刀さんしかいない。 そうしてコソコソ話しているのが 主様に見つかると 「帯刀となんの話をしている?」と聞かれ うまく答えられずにいると その夜は死ぬほど攻められるから コソコソ相談するのがうまくなった。 そのプレッシャーのせいか、 最近はどうも食欲がない。 講習や少しの家事は何とかこなしているけど ミスが目立つようになってして さらに気が沈んでしまう。 それに、最近はなんだか熱っぽい。 微熱が出ているのかもしれない。 でも、咳が出たりはしないから うつすような病気ではないはず… 講習と講習の間に空き時間ができ、 斎田さんが「最近の旦那様は働き詰めで全然休憩を取ってくれない」と嘆くので 僕はお茶をしに主様の書斎に向かった。 少し、足元がふらつく。 ドアをノックする前に少し休もうと ドアに火照った頬をつける。 冷たい木製のドアがひんやりして気持ちいい。 すると、主様の声が聞こえてきた。 どうやらお父様がいらしていて、お話をしているらしい。 盗み聞きなんてよくないとドアから耳を離そうとしたところで 「それで、子供の方はどうなんだ」と声が聞こえた。 これ以上聞いたらまずいと思うのに ドアから耳を離す事が出来ない。 「いえ。まだスイに二次性徴が来ていないので」 「まだって…、もうあの子も20歳になるのだろう?もう見切りをつけて側近でも愛人でも作れば…」 「嫌です」 「それじゃあ、東堂家はどうするのだ。 お前1人の家じゃないんだ」 「それはわかっています」 その声に悲痛な感じが滲み出ていて 僕の心はギュっと締め付けられた。 僕のせいで、主様が苦しんでいる。 僕に子供ができないなら、 すぐにでも婚約を解消してくれればいいのに 側近や愛人を作れと言っているお父様は かなり条件を緩めてくれているのだろう。 そんなふうに代替案をくださっているのに 主様は頑なに断っている。 僕を…、好きだから? だとしたら、僕はずっと主様の気持ちを裏切り続けている。 早く二次性徴が来ればいいのに。 僕はやっぱり欠陥品なんだろうか。

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