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第70話

「妻はお前の気持ちを大切にしたいとは言っているが、東堂家がお前の代で終わるというのであれば、わしも黙ってはおれん。 場合によってはお前の弟が次期当主になるであろう」 「本当に申し訳ないのですが、私はもうスイ以外を抱くことができません。 いざとなれば、当主の座は譲る予定です」 僕は頭を振った。 主様は当主になるために今まで、沢山努力をしてきたはずだ。 僕ごときのために、それを諦めるなんてダメだ。 「そうか…。そこまで言うなら仕方がない。 しばらくは待つが、佑(弟)に跡継ぎが生まれたら、その時は佑に継がせる」 「それで構いません」 「今日確認したかったことはそれだけだ。 わしはまた向こうに戻ることにする。 ドレスの相談があればいつでも言ってくれと妻が言っていた」 「ありがとうございます。スイも喜びます」 「それではな」 椅子から立ち上がる音と、こちらに向かってくる足音がして、僕は慌てて扉から離れる。 足音を殺して、廊下を走りかけたが、途中で視界がぐにゃりと歪み、僕は扉から少し離れた場所に座り込んだ。 衝撃のわりに大きな音を立ててしまったらしく、 「スイ!!」と、主様が慌てて駆け寄り、僕を抱き起した。 「どうした!?どこか悪いのか?」 「あ、いえ。少しふらついてしまっただけです。 それよりも、お父様のお見送りが」 「わしはここで良い。 大切な婚約者を先に看てやりなさい」 「申し訳ございません。 スイ、私の首に手をまわしなさい」 僕が控えめに主様の首に腕を回すと、ふわりと体が浮いた。 盗み聞きしたうえに、運んでもらうなんて申し訳ない。 主様のお父様にろくに挨拶もしていない。 自分の不甲斐なさに涙がにじんだ。 それを誤魔化すように僕は主様の胸に顔を埋める。 それをどう思われたのか、主様は僕の背中をとんとんと優しく叩いた。

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