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槐礼二郎(かいれいじろう)、19歳。とある私立大学に通う大学一年生である。 まあまあの高身長に、サラサラの天然茶髪と茶色の瞳──全体的に色素が薄い、甘いルックス。高校の時の成績は常に10番以内をキープしており、運動神経も抜群で苦手なスポーツも特に存在しない。(飛びぬけて得意なものもない)特技は料理とピアノ。 父親は映画監督で母は女優、兄は一流企業に勤めており、それなりに裕福な環境で育った。黙っていれば異性にはキャーキャー×∞言われるし、勘違いするには十分なスペックの持ち主だ。 しかしそんな彼には、ものすごく苦手なものがあった。それは…… (そういえば、電車に乗るの久しぶりだな。こっちの方が早いのに、なんでバス通にしたんだっけ……) 何気なくそう思い目線を上げた瞬間、窓越しに女性と目が合った。ガラスの反射ではなく、外にいる女性とだ。ちなみに電車は走行中である。 青白く血塗れの顔、ボサボサの長い髪、何も映し出さない瞳。もちろん生きた人間ではなく、いわゆる── 「ヒィッッ!?」 ──幽霊、というやつなのだが。  咄嗟に両手で口を押えて絶叫は飲み込んだものの、礼二郎は驚きのあまり腰が抜けて、その場にぺたんと座り込んだ。 ――そうだ、すっかり忘れていた。確か一ヶ月前も同じようないきさつで電車に乗り、走行中の車窓から全身血まみれの男性の霊を視たのだ。  彼らが自分で飛び込んだのか、誰かに突き落とされたのかは定かではないが、とりあえず強い恨みを抱いて現世にとどまっているということだけはなんとなく分かる。 「き、君、大丈夫か? 貧血かい?」 「ぅう~……っ」  恐怖で身体がガタガタ震え、涙がボロボロ溢れてくる。立っているだけで目立っていたイケメンの突然の奇行に、周囲は一時騒然となった。 「と、とりあえずここに座りなさい。ほら、涙を拭いて」 目の前に座っていたサラリーマンに席を変わられ、差し出されたハンカチを遠慮なく受け取った。 「グスッグスッ、お、おじさぁん、ありがとぉございますぅ……」 「!(キュン♡)」 「!(キュン♡)」 「!!(キュンキュン♡♡)」 エア親切をしたつもりが逆に親切にされ、先程の態度からは想像できない無防備な泣き顔を晒したことで、ナルシストイケメンとバカにしていたサラリーマンと女性二人をキュン死にさせた礼二郎だったが、本人はそれどころではなかった。 ――そう、礼二郎はこの世で霊というものが最も苦手だった……。  その次はゴキ○リ。

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