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3:白檀の香り①
大学の最寄駅に着いたが、何故か先程のサラリーマンも礼二郎と一緒に電車を降りてきた。ここは学園都市で学生しか降りないような駅なので、礼二郎は少し不思議に思った。
「あ、あの……?」
「君、本当に大丈夫? 良かったら大学まで送っていくよ」
「あ、いえ、もう大丈夫なんで……親切にありがとうございます……?」
サラリーマンは何故か後ろから礼二郎の腰を抱き、必要以上に顔を近付けて話しかけてくる。先程よりも鼻息が荒く、じっと見つめてくる爛々とした目に少しの恐怖を感じた。
――とはいえ、霊よりは怖くないけれど。
「そうかい? じゃあ良かったら連絡先を交換──」
無理矢理名刺を押し付けられそうになった、その時。
グイッ
「!?」
「――槐くん、急がないと一コマ目の講義に遅れるよ」
急に強く腕を引かれ、サラリーマンから引き離された。礼二郎はびっくりして自分の腕を掴んだ人物を見た。
その男は黒髪で少し毛先を遊ばせており(くせ毛かもしれないが)自分よりも少し背が高かった。縁が鼈甲のボスリントン型の眼鏡をかけており、表情はよく分からないが整った顔立ちをしている。
服装はダボッとした和テイストだが、足元は高級そうなスニーカーを履いていた。
自分の名前を知っているので、おそらく同じ大学の生徒だろうと見当は付いたが──
(……いやでも、誰!?)
引き寄せられると、彼からはふわっとお香のような匂いがした。
(これって、線香……? 凄く上品な、白檀の香りだ……)
彼は礼二郎の腕を掴んだまま足早に階段を降りて行く。礼二郎は転ばないように、彼に付いていくので必死だ。
改札の前に着き、やっと腕は解放された。
「――あ、あの……」
「ナンパされてたから。助けて迷惑だったならごめん」
「へ、ナンパ? あのおっさんが、男の俺を?」
「うん」
「へー……?」
よく分からないが、つまり彼は礼二郎を助けてくれたのだろう。
朝から血まみれの女の霊を見てしまったのは特大アンラッキーだったが、二度も見知らぬ人に親切にされたので(おっさんには下心があったようだが)今日は幸先がいいな、と礼二郎は思った。
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