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「じゃ、俺は急ぐから行くね」  彼は用事は済んだとばかりに礼二郎の腕を離し、先に改札を抜けようとしたので慌てて呼びとめた。 「あ、待って! 名前を……」  何故咄嗟に彼の名前を聞こうと思ったのか、礼二郎はよく分からない。 何となく、本能的に彼から離れたくないような気がしたのだ。  だが彼は振り返らなかった。急いで追いかけようとしたが、彼は既に改札を抜けている。礼二郎が急いでバッグからICカードを出して改札を抜けようとした、次の瞬間―― 「よっ、礼二郎! 今日は珍しく電車なのな」 「うわぁあっ!?」  後ろからポンと肩を叩かれた拍子に、ICカードが手の中から逃げてしまった。 振り返ると、そこにいたのは同じ学部の友人・池永だった。 「なんだよぉ、声掛けただけでふつーそんなにビビるか? ほい、カード。ユーレイでも見たよーな顔してさぁ」 「い、池永、おはよう……。ゆ、幽霊なんか見てないぞ!」  礼二郎は池永からICカードを受けとり、改札を通り抜けた。今のところ、まだ友人達には誰にも霊が視えることは言っていない。 「ま、朝から霊なんか出ても別に怖くねーよな~、明るいし!」 「お、おぉ……」  池永のせいで一瞬飛んでしまったが、彼のことを思い出しハッとして前方を見たが、彼はもうどこにもいなくなっていた。 「どしたん? 誰か知り合いでもいたのか?」 「いや……なんでもない」 (名前くらい教えてくれてもいいのに……また、会えるかな)    掴まれていた腕からは、ほのかに白檀の残り香がした。

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