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6:再会①

ドアを開けた途端、ふわりと漂う白檀の香り。 「あ……」 そこに居たのは、今朝礼二郎をナンパから助けてくれたべっ甲の眼鏡をした男だった。 今朝はオシャレな服装だったが、今は部屋着なのかTシャツでラフな格好をしている。 「どうしたの? そんなに泣いて……」 彼はスッと手を上げると、親指で優しく礼二郎の涙を拭ってくれた。 その優しい手つきに一瞬心臓が跳ねたが、今はそれどころではない。 「ご、ゴキが出て……っ! 殺虫剤の中身もなくて……ていうか、こわくてっ! お、おねがい、助け──」 「ゴキ? ああ……何か叩くものある?」 「え……?」 彼は礼二郎の様子を察してか、突っ掛けを脱ぐとズカズカと部屋に入り込んで来た。 こんな状況じゃなかったら礼二郎も『何勝手に人んちに上がり込んでんだよ!』と突っ込むところだが、むしろ今は勝手に上がってくれてありがたいしかない。それに男なので、部屋に霊が入る心配もない。 「どこらへんにいたの?」 「べ、ベランダの近く……」 「あ、いた。部屋綺麗だし、外から来たのかな」 「多分そうだと思う……」 「要らない雑誌とかスリッパとかあったら貸して。怖いなら避難しててもいいよ」 「あ、ありがとう。あの、名前……」 「柴だよ。柴京介」 「しば、くん……」 礼二郎は柴のお言葉に甘えて、玄関に避難した。すぐにバシッバシッと雑誌で思い切り叩く音が何度かして、どうやらGはアッサリと天に召されたようだ。ただ、礼二郎には死骸処理も無理だった。 「槐君、トイレットペーパー貸してくれる?」 「は、はいっ!」 礼二郎はなるべくGの死骸を見ないようにして、ストック分のトイレットペーパーを一つ丸ごと手早く柴に手渡した。 Gは既に死んでいるのに、まだ怖がっている礼二郎に思わず柴の口角は上がった。 柴はトイレットペーパーで死んだGをサッと包み、トイレに流した。その後、アルコールティッシュで床を綺麗に拭きあげ、大捕物は無事終了したのだった。

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