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②
「じゃあ柴君、これからよろしく! 知ってるかもだけど俺、経済学部」
「俺は理工学部。建物が違うからあまり学内では会わなそうだね」
「でも食堂は一緒だし、今朝みたいに講義時間がカブッたら一緒に行こう」
「いいよ」
今度は改札で置いて行かれないよう、先に言っておいた。今朝はまだ名前も知らなかったのに、柴に置いていかれた時ひどく悲しいというか、寂しいというか、変な気持ちになったのだ。
何故かは分からないが……。
「でも槐君、いつもはバス通学じゃなかったっけ? これからは電車通にするの?」
「あ、そうだった」
「ていうか電車の方が安いし、大学も駅の方が近いのになんでバス?」
「う、うーん……」
返事になっていない。
なんと答えればいいのか、下手なことを言って新しくできた友人を無くしたくない。
「き、気分というか……」
「………」
「昨日は寝坊したんだけど……」
礼二郎は、嘘や誤魔化しが壊滅的に下手だった。池永は適当な性格なので今朝なんとか誤魔化せたが、柴はどうだろう。
「……もしかして、以前痴漢にあったことがあるとか?」
「!?」
「ごめん、それは言いにくいよね」
「い、いや、その……………ウン」
朝の通勤ラッシュで痴漢にあったことは、実はある。けど礼二郎は(この痴漢野郎、隣のお姉さんと俺のケツ間違えてやがるww 教えてやりたいけど、このまま間違えていればお姉さんは被害に遭わないから、甘んじて受けてやるか……)などと草を生やし、目的駅に着くまで痴漢の好きにさせた。
「駅員さんに突き出しても良かったけど、まぁ男が痴漢されたって訴えたところで笑われるだけだしな」
自虐気味にそう言い、柴にも『だよな(笑)』と言って貰うの待っていた
──しかし。
「……そんな事ないよ」
「え」
「被害者が男とか女とか関係ない。痴漢はれっきとした犯罪だし、好きでも無い相手に触られるなんて不快だし、怖かったよね?」
「………」
怖い、とは思わなかった。めちゃくちゃ不快ではあったが。
ただラッシュで身動きが取れなかったし、それに後から痴漢は隣の女性ではなく、最初から礼二郎を狙っていたと分かった。『ハァハァ、綺麗なお兄ちゃん、いいオシリしてるね……』と耳元で気色悪い声に囁かれたからだ。だから……
「こわかった……かも……」
礼二郎はポツリと、初めてその時の正直な気持ちを漏らした。今まで友達にも家族にも、誰にも言えなかったのに。
電車通からバス通に変えた本当の理由は、痴漢のせいではないけど。
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