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「じゃあ柴君、これからよろしく! 知ってるかもだけど俺、経済学部」 「俺は理工学部。建物が違うからあまり学内では会わなそうだね」 「でも食堂は一緒だし、今朝みたいに講義時間がカブッたら一緒に行こう」 「いいよ」 今度は改札で置いて行かれないよう、先に言っておいた。今朝はまだ名前も知らなかったのに、柴に置いていかれた時ひどく悲しいというか、寂しいというか、変な気持ちになったのだ。 何故かは分からないが……。 「でも槐君、いつもはバス通学じゃなかったっけ? これからは電車通にするの?」 「あ、そうだった」 「ていうか電車の方が安いし、大学も駅の方が近いのになんでバス?」 「う、うーん……」 返事になっていない。 なんと答えればいいのか、下手なことを言って新しくできた友人を無くしたくない。 「き、気分というか……」 「………」 「昨日は寝坊したんだけど……」 礼二郎は、嘘や誤魔化しが壊滅的に下手だった。池永は適当な性格なので今朝なんとか誤魔化せたが、柴はどうだろう。 「……もしかして、以前痴漢にあったことがあるとか?」 「!?」 「ごめん、それは言いにくいよね」 「い、いや、その……………ウン」 朝の通勤ラッシュで痴漢にあったことは、実はある。けど礼二郎は(この痴漢野郎、隣のお姉さんと俺のケツ間違えてやがるww 教えてやりたいけど、このまま間違えていればお姉さんは被害に遭わないから、甘んじて受けてやるか……)などと草を生やし、目的駅に着くまで痴漢の好きにさせた。 「駅員さんに突き出しても良かったけど、まぁ男が痴漢されたって訴えたところで笑われるだけだしな」  自虐気味にそう言い、柴にも『だよな(笑)』と言って貰うの待っていた  ──しかし。 「……そんな事ないよ」 「え」 「被害者が男とか女とか関係ない。痴漢はれっきとした犯罪だし、好きでも無い相手に触られるなんて不快だし、怖かったよね?」 「………」 怖い、とは思わなかった。めちゃくちゃ不快ではあったが。 ただラッシュで身動きが取れなかったし、それに後から痴漢は隣の女性ではなく、最初から礼二郎を狙っていたと分かった。『ハァハァ、綺麗なお兄ちゃん、いいオシリしてるね……』と耳元で気色悪い声に囁かれたからだ。だから…… 「こわかった……かも……」 礼二郎はポツリと、初めてその時の正直な気持ちを漏らした。今まで友達にも家族にも、誰にも言えなかったのに。 電車通からバス通に変えた本当の理由は、痴漢のせいではないけど。

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