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しかし、柴は礼二郎のように純粋でもお人好しでもお節介でもなかった。 むしろ人の好き嫌いは激しいほうで、他人に何かをしてあげたりして貰ったりすれば必ず対価が発生すると思っている。 だから無償労働なんて絶対にやりたくない、という冷淡で合理的な人間だった。 ゴキ〇リだって、頼んできた相手が礼二郎じゃ無かったら代わりに退治なんてしない。殺虫剤を貸して終わりだ。 ──そんな柴が礼二郎に構う理由は、ただ一つ。単純に下心だった。 「まあ、そういうワケだから」 「うん、ありがとう柴君!」 「(ありがとう……?)」 柴は元々バイセクシャルで、礼二郎は見た目も性格もとても好みだった。ぶっちゃけ一目惚れ、というやつである。 柴は今、礼二郎のことに関して気になっていることが一つだけある。が、本人が気付いていないというか困っていないのなら、わざわざ言って怖がらせることはないだろう。(かなり怖がりのようだし) は、礼二郎には何もしない。  今のところは……。 「長々引き留めてごめんな、じゃあおやすみ! 柴君 」 「うん、おやすみ」  礼二郎はドアから顔を出して、柴が部屋に戻るのを見届けようとした。  その瞬間――。 「あっねぇ柴君!」 「うん?」 「もしかして犬、飼ってる!?」 「……え?」 「なんか今ドアの中から可愛いくるんとした仔犬の尻尾が見えたような気がするんだけど!」  礼二郎は嬉々として言った。柴がもし犬を飼っているのなら──しかも仔犬! ──是非ともモフらせて貰いたいと思って。  しかし柴が眉を寄せて、怪訝な顔をしたので―― 「あ、このマンションペット禁止だったっけ。俺、誰にも言わないよ?」 「いや、飼ってないよ。そもそも……」 「え」  やはり、勘違いだったようだ。

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