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16:憑依①

電車が次の駅に停車し、ドアが開いた。 大学まではあと二駅だったが、柴は礼二郎を心配してやはり一旦降りようと提案した。 「ごめん柴君、付き合わせちゃって……講義遅刻しないかな」 「全然いいよ、まだ時間余裕あるし」 「え、君達はここで降りるのか? まだ大学の駅じゃないぞ!?」 柴はリーマンを無視し、礼二郎を抱きかかえるようにして電車を降りた。礼二郎も特に抵抗せず、柴に身を任せている。 (電車を降りてしまえば、一旦あの霊とは離れられるはず……!)  そう思い、一息つこうとしたが。 『貴方の……』 (――ん?) 『貴方の身体を貸してちょうだい』 (……はぁ!?)  次の瞬間、礼二郎は全身の力が抜け、それと同時に身体が自分の意志とは関係なく動くのを感じた。──そして。 「槐君!?」  礼二郎は柴を押し退けて、右手でサラリーマンの腕をしっかりと掴んでおり、ドアが閉まる寸前に力ずくで電車から引っ張り降ろしていた。 (な、なんで……? 俺の意志で身体が動かせない!!) 「な、なんだい君ぃ、やっぱりこんな生意気な若造よりも大人の僕の方がいいって? いやいや、まいったな~!」 『……馬鹿な男ね。これから殺されるとも知らないで……』 (え!? 待って、) 『貴方に恨みは無いけどコイツにはあるの。私、この男に殺されたから』 (ちょ、え、本当に待って!? それでなんで俺が――) 『手伝ってもらうわね』 (そんな勝手な! 嫌だ、俺は人殺しなんかしたくない!!)  礼二郎は必死にリーマンを掴んでいる手を離そうとするが、全く離れない。リーマンはそれを礼二郎の意志だと勘違いしており、嬉しそうにニヤニヤしている。 「しかし積極的だなぁ、わざわざ電車から引っ張り降ろすなんて……会社に遅れたら君に責任を取ってもらおうかな?」 「……ッ、」 「槐君! 俺の声聞こえてる!?」 「おい君ぃ、フラれたのにしつこいぞ」 (柴君の声、聞こえてるけどなんか……変だ)  柴の焦った声は聞こえるものの、ひどくくぐもっている。耳に薄い膜が張られたような――まるで自分が、水の中にいるように。

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